くりぃーむソ~ダ

気まぐれな日記だよ。

王様の扉(174)

2024-01-21 00:00:00 | 「王様の扉」


「ふう――」

 と、鎧の中から出てきたのは、魔女のアレッタだった。
 出てきたアレッタは、つまずくように膝を折って地面に手をつくと、疲れた果てたように大きくひとつ息をついた。
 抜け殻のようになった虹色の青騎士の鎧は、二人がかりで押さえていたジローとグレイ手の中で、さらさらと黄色い砂に変わって崩れていった。
「――魔女様」と、ポットはつないでいたマコトの手を離し、階段を飛ぶように降りて、アレッタのそばに行った。

「大丈夫ですか、魔女様」

 と、ポットは倒れたアレッタに駆け寄ったが、体を起こせるほどの力もなく、ただそばにいて、心配そうに覗きこむだけだった。
「大丈夫よ」と、アレッタはポットの低い肩に手をかけながら、立ち上がって言った。「ちょっと、疲れちゃったわ」
 と、又三郎はうなずいて言った。
「なにがあったんですか? 魔女のアレッタ殿」
「――そうよね。心配かけてごめんなさい」と、アレッタは申し訳なさそうに言った。「ゾオンっていう国に贈った王様の扉が、争いに巻きこまれた人達を逃がそうとしたんだけれど、ドリーブランドではない別の場所に連れて行こうとして、夢の扉とつなげてしまったの」
「なんで、夢の扉とつなげたんだ?」と、マコトは首をかしげて言うと、黙って聞いていたグレイ達も、同じように訳がわからないといった表情を浮かべて、マコトを見上げた。
「あなた達がいた場所に、人を逃がそうとしたからよ」と、アレッタは言った。「夢の扉とつながらなければ、ドリーブランド以外の場所には行けないんですもの」
「そいつらはどうなった。まさかオレ達は、逃げた連中と入れ替わりでこっちの世界に引っ張られたのか……」と、マコトは怒ったように言った。
「だめよ」と、アレッタはしっかりとした足取りで階段を上ると、サオリの手をそっと手で包みながら言った。「そんな姿で怒ったって、かわいらしさが増すだけだもの」
 なにを――と、かんかんになってゲンコツを握りしめるマコトをなだめるように、ジローは言った。
「扉の魔女様。あなたは我々のことをよく知ってるみたいだ。マコトが言ったように、誰かの身代わりで、ここに呼ばれたのか」
「――」と、アレッタは首を振った。

「沙織ちゃんよ」

 と、誰もが驚いたような表情を浮かべていた。
「沙織? どうして沙織が、おれ達をここに呼ぶんだ」と、ジローは困ったように言った。

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王様の扉(173)

2024-01-21 00:00:00 | 「王様の扉」


「――私。どうしたらいいの」

 と、扉の魔女の家の中から、胸に両手を当てたサオリが、心持ちガクガクと震えながら外に出てきた。
「沙織が探している物はなんだった? 目の前の青騎士は、沙織が探している物を持っているんだよ」と、ジローはサオリに言った。
 ひっく、としゃくり上げたサオリは涙をこらえつつ、意を決して、押さえつけられた青騎士に近づいていった。
 サオリになにかあったら、とサオリの様子を見守っている又三郎は、アオは、ジローは、グレイは、どこか達観しているマコトと、心配そうにしているポット以外は、すぐにでも飛び出せるように息を凝らしていた。

「お父さんはどこ? お父さんを返して――」

 階段の中間で立ち止まり、正面にいる青騎士に言ったサオリは、胸の前で重ねていた両手を広げた。
 すると、小さな手の中から、緑色の光が文字どおり溢れだした。
「――おい、なんでおまえが持ってるんだ……」と、マコトは思わず身を乗り出して言った。「それって、オレの石じゃないのか」
 と、マコトに答える者は誰もいなかった。サオリの手の中で光り輝くのは、なにかの宝石のようだった。
 サオリが持っている緑色の石は、まぶしくほとばしる緑色の光を一点に集め、青騎士の被る兜の面に向かってまっすぐに伸びていった。
 ぴたり、と青騎士の動きが止まった。
 青騎士の腕を捕まえていた二人は、意外な反応に互いの顔を見合わせた。
「どうした――。これって、オレと機械陀が出てきたときに似てるぞ」と、マコトは言って、注意をするように促した。「気をつけろ。なにか予想外のもの飛び出してくるかもしれないぞ」

 ――ガリッ。

 とも、

 ――ザリッ。

 とも聞こえる音を立て、抵抗しなくなった虹色の青騎士の鎧が、面を覆う兜のてっぺんから鋼鉄の足先まで、脱皮をするようにめくれ上がった。

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