くりぃーむソ~ダ

気まぐれな日記だよ。

王様の扉(188)

2024-01-28 00:00:00 | 「王様の扉」


「そこを動くなよ」

 と、メガホンを持った眼帯が、こちらに向けて言った。
「そんな大げさなもんは、仕舞ってくださいよ」と、ニンジンは言った。
「二人とも、手を上げてそこを動くな――」と、眼帯をした刑事は言った。
「……黙って指示に従おう。悪い人じゃない」と、ニンジンは言って両手を挙げると、ぎこちない様子でマジリックも手を挙げた。

「そのまま、動くなよ――」

 と、そばにやってきた警官達は、手を挙げたニンジンとマジリックを、危険な物を持っていないか、一人ずつ、服の上から手探りで確かめていった。
「おっと、静かに扱ってください」と、マジリックは慌てたように言った。ボディチェックをしていた警官が、マジリックの帽子に手をかけていた。「――そっと持ち上げてください。中に助手が入っているんです。あんまり揺すると、機嫌を悪くして癇癪を起こしますから」
 はたと動きを止めた警官だったが、不機嫌そうに顔をしかめると、マジリックの頭からチェック柄の大きな帽子をはずし取った。
「もう、いいんじゃないか」と、ニンジンは不機嫌そうに言った。「なにも隠しちゃいないし、ライオンみたいなでかい動物を、ポケットの中にしまっておけるわけがないだろ」
 警官の一人が顔を上げ、

「危険な物は、持っていません」

 と、振り返って眼帯の刑事に報告した。
 眼帯をした刑事は、「わかった」と言うと、ニンジンとマジリックに向かって、手を下ろしてもいいぞ、と身振りで示した。
 二人がほっとして腕を下ろしたとたん、腹の底がカミナリで撃たれたような、恐ろしい鳴き声が聞こえた。

「――ほら、だから注意したじゃないですか」

 と、マジリックが困ったように言った。
 辺りに響く鳴き声は、警官が持つマジリックの帽子の中から、聞こえてくるようだった。
 手を下ろしたマジリックは、警官が持つ帽子に手を伸ばした。しかし、異状を感じた警官は、職業柄かさっと手を引き、マジリックに帽子を返さなかった。
「どうするつもりなんです」と、マジリックは驚いた表情を浮かべた。「早くなだめないと、怒って外に出てきますよ――」
 怒りに我を忘れたような咆哮が、マジリックの帽子の底から、ぐんぐん大きさを増して近づいてきた。

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王様の扉(187)

2024-01-28 00:00:00 | 「王様の扉」


「ずいぶん騒がしくなっちゃいましたね」

 と、言ったマジリックは、どこか他人事のようだった。
「狙いはあんたに違いないが、こう囲まれてちゃ、どこにも逃げ場はないみたいだぜ」と、ニンジンは頭を掻きながら言った。
「困りましたね」と、マジリックはベンチから立ち上がった。
「さあ、レイラさん。ちょっと騒がしくなってきましたから、この中で休んでいてください」と、マジリックは帽子を手に取ると、抱いていた小さなアシスタントを、脱いだ帽子の中にそっと潜りこませた。
「――どうなってるんだ、その帽子」と、ニンジンが不思議そうに帽子の中をのぞいていると、パトカーから降りてきた警官が言った。

「おい、おまえ達。放した猛獣はどこにいる」

 と、パトカー越しにメガホンを握っているのは、眼帯をした刑事だった。「市民が危険な目にあうんだ。我々に協力してくれないか」
「君塚さん」と、ニンジンは訴えるように言った。「勘違いしてますよ。猛獣なんか放しちゃいないし、見たとおり、ここにそんな動物はいません」
 わずかな沈黙があった。パトカーが即席に作ったバリケードの向こうで、なにやらひそひそと、話しをしているようだった。

「――あれって、誰ですかね」

 やきもきとした時間の中、マジリックが遠くに視線を向けた。いそがしい通勤時間も過ぎ、静けさを取り戻しかけていた街が、またにわかに騒がしくなっていた。ざわざわと、野次馬の人だかりができ始めていた。

「――? 誰だろう」

 と、ニンジンは目をこらした。
 マジリックが見ている方向に、似つかわしくない大きな外国車が止まっていた。
「知ってるヤツか?」と、ニンジンはマジリックに聞いた。全開になった後部座席の窓から、スキンヘッドの男が顔をのぞかせ、意地悪そうに大口を開けて笑っていた。
 マジリックは、「さぁ……」と首を傾げた。

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