「そこを動くなよ」
と、メガホンを持った眼帯が、こちらに向けて言った。
「そんな大げさなもんは、仕舞ってくださいよ」と、ニンジンは言った。
「二人とも、手を上げてそこを動くな――」と、眼帯をした刑事は言った。
「……黙って指示に従おう。悪い人じゃない」と、ニンジンは言って両手を挙げると、ぎこちない様子でマジリックも手を挙げた。
「そのまま、動くなよ――」
と、そばにやってきた警官達は、手を挙げたニンジンとマジリックを、危険な物を持っていないか、一人ずつ、服の上から手探りで確かめていった。
「おっと、静かに扱ってください」と、マジリックは慌てたように言った。ボディチェックをしていた警官が、マジリックの帽子に手をかけていた。「――そっと持ち上げてください。中に助手が入っているんです。あんまり揺すると、機嫌を悪くして癇癪を起こしますから」
はたと動きを止めた警官だったが、不機嫌そうに顔をしかめると、マジリックの頭からチェック柄の大きな帽子をはずし取った。
「もう、いいんじゃないか」と、ニンジンは不機嫌そうに言った。「なにも隠しちゃいないし、ライオンみたいなでかい動物を、ポケットの中にしまっておけるわけがないだろ」
警官の一人が顔を上げ、
「危険な物は、持っていません」
と、振り返って眼帯の刑事に報告した。
眼帯をした刑事は、「わかった」と言うと、ニンジンとマジリックに向かって、手を下ろしてもいいぞ、と身振りで示した。
二人がほっとして腕を下ろしたとたん、腹の底がカミナリで撃たれたような、恐ろしい鳴き声が聞こえた。
「――ほら、だから注意したじゃないですか」
と、マジリックが困ったように言った。
辺りに響く鳴き声は、警官が持つマジリックの帽子の中から、聞こえてくるようだった。
手を下ろしたマジリックは、警官が持つ帽子に手を伸ばした。しかし、異状を感じた警官は、職業柄かさっと手を引き、マジリックに帽子を返さなかった。
「どうするつもりなんです」と、マジリックは驚いた表情を浮かべた。「早くなだめないと、怒って外に出てきますよ――」
怒りに我を忘れたような咆哮が、マジリックの帽子の底から、ぐんぐん大きさを増して近づいてきた。