「このときの言葉は、当てずっぽうというやつでしょうか」と、ダンは首をかしげて言った。「短いやりとりでしたが、形の無い心を持つかどうかは、このやりとりだけでわかるはずがありません」
「おまえにはわからないだろう」と、マコトは言った。「暗闇を照らすたくさんのスクリーンの数ほど、長いつきあいなんだ。表情ひとつ、発する言葉ひとつでも、以前のおまえとどこか違うということくらい、いやでもわかるぜ」
「――」と、ダンは納得できないというように、口をつぐんだ。
「おまえに、宿題を預けるよ」
と、男は岩の上の端に飛び移ると、拳を握って身構えているダンに言った。
「正直、おれはもうあきらめた。おまえに与えた使命は、たった今解除する。だから、自分がどうして生きているのか。なんのために生きているのか。その答えを出せ。そして、導き出された答えのとおり、生きていけ」
――じゃあな。
男は、ダンにくるりと背中を向けると、底が見えないほどの山頂から、翼を広げた鳥のように大きく腕を広げ、飛び出した。
思わず、ダンは手を伸ばして、男を助けようとした。しかし、はっと手を止めたダンは、自分の手をまじまじと見て、首をかしげた。
「で、あれからけっこう過ぎたけど、答えは出たのかよ」
と、マコトは言うと、考えこむダンを見ていたダンは、マコトを振り返った。
――すべての明かりが消え、暗闇が再びすべてを覆い尽くした。
振り返ったダンがどんな表情をしていたのか、マコトは見ることができなかった。
暗闇の中、体がふわりと浮き上がったのを、マコトは感じていた。そして、どこからか声が聞こえてきた。
「見かけによらず、あんたも、いろいろと苦労してるんだねぇ」
と、感心したように言う声は、もしかすると、扉の魔女だったのかもしれない。