「――そうみたいだな」
と、言ったのは、マコトだった。
「このときのおまえは、鎖につながれた猛獣だった。十字教の奇跡のひとつとされ、命じられるままに力を振るっていた」
「――」と、ゴーレムと呼ばれた人形が、スクリーンの外にいるマコトを振り返った。
スクリーンの中に映し出されている男は、ゴーレムに向かってなにかを話し続けていたが、マコトを見下ろしているゴーレムの耳に、男の声はまるで聞こえていないようだった。
「オレはおまえに、使命を果たせと命じた。なのにおまえは、審問官が命ずるまま、オレ以外の、悪魔の化身だと勝手に決めつけられた無関係な者を、次々と襲ったんだ」
「私は造られたまま、命令に従っただけだ」と、ゴーレムは言った。「おまえがそうした」
「人のせいにするなよ」と、マコトはスクリーンに映し出されたゴーレムに言った。「生まれたばかりのおまえを十字教に預けたのは、オレが目覚めるまでの間、人々の脅威にならないためだ。だからオレは十字教の経典に秘密の詩を残して、その詩を唱えた者の命令を聞くようにしたんだ。だからって、その命令に従わなければならないなんて、おまえを造っちゃいない。それはただの合図にすぎないことくらい、わかっていたはずだろ。おまえの使命は、はっきりしているたはずだ。オレが見つからなければ、探せばいい。探せなければ、それでも追いかけ続けろ。そうやって、自分で答えを導き出さなきゃならなかったんじゃないのか」
ゴーレムは硬い表情をさらに硬くさせ、なにかを言おうとしたが、スクリーンに映し出された映像の場面が切り替わり、ゴーレムも半ば強制的に移動させられてしまった。
「おまえには、魂以外のすべての物を持たせた」
と、見慣れない男の声が、再び聞こえ始めた。
「と思ったんだけどな。数え切れないほど命を取られて、気がついたんだ。名前をつけていなかっただろ」
マコトに背を向けているゴーレムは、首をかしげた。
「私に名前など必要ない」と、ゴーレムは男に言った。「人間ではないものに、名前など不要のはずだ。私には、与えられた使命がある。それだけで十分ではないか」
「ゴーレムだなんて、そんなふざけた名前をもらって喜んでるんじゃねぇよ」と、男は言った。「――そうだなぁ。オレとおまえしか知らない古くさい名前より、今の時代に生きている誰もが受け入れやすい名前の方がいいよな。――おまえは、“ダン”だ。魂はないかもしれないが、ひとつの命として生きろ。使命に見合わない命令なんかに、耳を貸す必要はない」
「――」と、ゴーレムと呼ばれていた人形は、ダンという名前を得て、困ったように立ち尽くしていた。
その様子を、にたにたと笑って見ていた男は、「じゃあ、また会おうぜ」と、楽しそうに言った。
仕方がないな――と、スクリーンを見上げていたマコトがため息をつくようにつぶやくと、スクリーンに大写しにされたダンは、正面に立つ男に容赦のない一撃を加えた。