くりぃーむソ~ダ

気まぐれな日記だよ。

王様の扉(148)

2024-01-08 00:00:00 | 「王様の扉」


「――そうみたいだな」

 と、言ったのは、マコトだった。
「このときのおまえは、鎖につながれた猛獣だった。十字教の奇跡のひとつとされ、命じられるままに力を振るっていた」
「――」と、ゴーレムと呼ばれた人形が、スクリーンの外にいるマコトを振り返った。
 スクリーンの中に映し出されている男は、ゴーレムに向かってなにかを話し続けていたが、マコトを見下ろしているゴーレムの耳に、男の声はまるで聞こえていないようだった。
「オレはおまえに、使命を果たせと命じた。なのにおまえは、審問官が命ずるまま、オレ以外の、悪魔の化身だと勝手に決めつけられた無関係な者を、次々と襲ったんだ」
「私は造られたまま、命令に従っただけだ」と、ゴーレムは言った。「おまえがそうした」
「人のせいにするなよ」と、マコトはスクリーンに映し出されたゴーレムに言った。「生まれたばかりのおまえを十字教に預けたのは、オレが目覚めるまでの間、人々の脅威にならないためだ。だからオレは十字教の経典に秘密の詩を残して、その詩を唱えた者の命令を聞くようにしたんだ。だからって、その命令に従わなければならないなんて、おまえを造っちゃいない。それはただの合図にすぎないことくらい、わかっていたはずだろ。おまえの使命は、はっきりしているたはずだ。オレが見つからなければ、探せばいい。探せなければ、それでも追いかけ続けろ。そうやって、自分で答えを導き出さなきゃならなかったんじゃないのか」
 ゴーレムは硬い表情をさらに硬くさせ、なにかを言おうとしたが、スクリーンに映し出された映像の場面が切り替わり、ゴーレムも半ば強制的に移動させられてしまった。

「おまえには、魂以外のすべての物を持たせた」

 と、見慣れない男の声が、再び聞こえ始めた。
「と思ったんだけどな。数え切れないほど命を取られて、気がついたんだ。名前をつけていなかっただろ」
 マコトに背を向けているゴーレムは、首をかしげた。
「私に名前など必要ない」と、ゴーレムは男に言った。「人間ではないものに、名前など不要のはずだ。私には、与えられた使命がある。それだけで十分ではないか」
「ゴーレムだなんて、そんなふざけた名前をもらって喜んでるんじゃねぇよ」と、男は言った。「――そうだなぁ。オレとおまえしか知らない古くさい名前より、今の時代に生きている誰もが受け入れやすい名前の方がいいよな。――おまえは、“ダン”だ。魂はないかもしれないが、ひとつの命として生きろ。使命に見合わない命令なんかに、耳を貸す必要はない」
「――」と、ゴーレムと呼ばれていた人形は、ダンという名前を得て、困ったように立ち尽くしていた。
 その様子を、にたにたと笑って見ていた男は、「じゃあ、また会おうぜ」と、楽しそうに言った。
 仕方がないな――と、スクリーンを見上げていたマコトがため息をつくようにつぶやくと、スクリーンに大写しにされたダンは、正面に立つ男に容赦のない一撃を加えた。

 

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王様の扉(147)

2024-01-08 00:00:00 | 「王様の扉」

 新しく現れたスクリーンの中には、やはり見慣れない男が映し出されていた。
 そして、その向かい側には、先ほどのスクリーンに映っていた人形が、薄汚れた長いコートを纏って立っていた。
「よお、久しぶりだな」と、男は言った。「もうそろそろ誕生日じゃなかったか」
 聞こえる言葉は、古いイントネーションではあったが、注意をして聞けば、なんとか意味が理解できるものに変わっていた。
「――」と、人形はむすりと唇を結んだまま、なにも答えなかった。
「ちぇっ」と、男は笑いながら、舌打ちをして言った。「そんな無表情に作った覚えはないぜ。この前会ったときはたどたどしかったが、ちゃんと言葉を話していたじゃないか」

「――聞こえているさ」

 と、人形が言葉を発した。いや、もはや人形と呼べるほど、無機質な表情ではなかった。研究室のような場所で寝台に寝かされていたときとは、まるで別の物だった。
 意思を宿した目はまるで人と同じで、男に引けをとっていなかった。向かい合って立つその姿も、濃い灰色のセメントのような肌の色をしている以外は、人間と同じだった。
「あいつらには、なんて呼ばれているんだ」と男は言った。「十字教のお偉いさん達も、悪魔退治に悪魔を使うのは教義に反するとか、おれにしてみりゃどうでもいい議論の結論が出なくって、ここに来るまでずいぶん遅れたんだろ」

「いじめられやしなかったか――」

「――」と、人形であった物は、明らかに息を詰めていた。
「ふふん。図星みたいだな」
 と、男が言うと、人形であった物は言った。
「私がおまえに造られたのは、現在の暦で数えれば2万年前の29日に合致する。与えられた使命を果たせなかったのは、教会の地下に封印されていたからだ。新しい司教の元、教義に修正と変更が加えられ、私がおまえを抹殺することが“悪”とされたためだ。今の私は、ゴーレムと呼ばれている」
「知ってるよ。街じゃ有名じゃないか」と、男は言った。「呪われた泥人形で、人を襲うってさ。それこそ、悪魔が乗り移っているそうだぜ」ククク……。と、男は笑って言った。「いわれのない噂は、人々の娯楽のひとつだからな。石を投げつけられたからって、おまえは壊れるはずもない。矢を射られても、矢がへし折れてしまう。どんな武器でも傷つけることができないから、人間はおまえを怖がるんだ」
「そうだ」と、人々にゴーレムと呼ばれ、恐れられている人形は言った。「今の私は、おまえに与えられた使命を果たせないでいる。十字教の審問官達がおまえを探し出し、悪魔送りを行う審問官の命令が下されなければ、私は目覚めることも許されない」

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