くりぃーむソ~ダ

気まぐれな日記だよ。

王様の扉(125)

2023-12-28 00:00:00 | 「王様の扉」

「ここは、どこなんだ」と、ジローは青い光に言った。「どういうわけか、記憶があまりないんだ」
「なんだい。見ればわかるだろ――」と、青い光は言った。「ここは海さ。それ以外の名前を、私は知らないね。まぁ、陸の町ならそれぞれに名前があるが、それは行ってからのお楽しみさ。なんせ、行き先は海の状況次第だからね。今回だって、はぐれた群れを探しに、反対側の海に進路を向けていたんだ。私のイルカが急に騒ぎ出して、勝手に泳ぎ始めたから、たまたま進路を変えただけさ」
「鯨を見たことがなかったので驚いたが、しかもこの広い海で放牧しているなんて、さらに信じられないな」
「へぇ。私達みたいな連中がいない場所から来たんだな」と、青い光は言った。「ほら、そこにあるベッドを使っておくれよ。いつまでここにいるかはわからないけど、少なくとも、陸に立ち寄るのはしばらく先になるからね」
「ああ。わかった」と、ジローはうなずいた。「ありがとう。礼を言うよ」
「――礼なんかいらないよ」と、青い光は照れたように言った。「ここにいる以上は、働かなきゃだめだからね。頑張っておくれよ」
「ああ。そのつもりだ」
 と、ジローはうなずいた。そして、その日から、海での生活が始まった。

 ――――……

 この海に来てから、七回目の日の出を迎えた。
 人々の朝は、早かった。夜がまだ暗闇に包まれているときからそれぞれ起き始め、鯨達の餌となる魚達の群れがどの海流に乗って移動するか、イルカの背にまたがり、船の先にある海を調べることから、一日が始まった。
 大海原を放牧して旅をする彼らとの生活は、はじめてのことばかりで戸惑うことも多かったが、楽しみも多かった。
 ジローの乗る先頭の船は、小さな町をひとつそっくり船にしてしまったような、旅をする人々の拠点となる船だった。船団をなすその他の船は、ある船は護衛を、ある船は食料や工業を、というように、それぞれの役目を担った船だった。
 船は、大きな帆を翻すこともあれば、風のない日は、じっと耐えて風が吹くのを待つこともあった。船同士の連絡では、手旗を振ってやり取りしているのをよく見るが、管楽器のように大きく口を開いた拡声器を使うこともあった。
 食事で驚かされたのは、鯨達から搾乳したミルクと、同じくミルクから作ったチーズなどの乳製品が、毎食のテーブルに並べられることだった。新鮮な野菜や果物は、畑を持っている船から調達されるほか、多くの海草も食卓を彩った。
 ただひとつ難があるとすれば、それは水だった。雨が降ればそれを貯めておけるが、そうでなければ朝露を集めるか、海水を濾して作るしかなかった。なので、好天が続いて雨が確保できない間は、水の利用を制限しなければならなかった。

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よもよも

2023-12-27 07:15:07 | Weblog

やれほれ。

札幌じゃまとまって雪が降ったそうだけど、

気の毒だけどこっちは曇り空だけ。。

朝の雪かきはスルーできたけど、

息が苦しい。。

熱々のサウナに入って

一瞬うってえづくときみたいな感じ・・・。

きっとね、

仕事行ったときに玄関前の温度計見たら、

マイナス2か3はあるはずだわXXX

だけど、

マイナス18度って先週あったからさ、

ここんところ大体朝はマイナス二桁が続いてたから、

暖かく感じるって、

いやな適応能力・・・。

寒いもんは寒いって感じたい。。

すめば都、喉を通ればなんて

諦め半分言ったり考えたりもするけど

汚いものは汚い。辛いことは辛いって言わなきゃ、

自分に嘘をついてるだけで、自分を傷つけるだけなんだよね。。

治らない大怪我になる前に、

泣きべそかいてもいいから、

さっさとバンドエイド貼るだけで治しちまったほうがいいんだよね。。

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王様の扉(124)

2023-12-27 00:00:00 | 「王様の扉」

 と、ジローのそばまでやって来た船の先には、最初に呼びかけてきた女性のほかに、数人の人達が集まってきていた。
 波に揺られながら船を見上げていると、舳先にいる誰かが、ジローにロープを投げた。
 目の前に落ちたロープを拾うと、船の人々が声を合わせ、小島のような大きな船にジローを引っ張り上げた。

「ありがとう。助かったよ」と、全身から海水をしたたらせたジローは、人々にお礼を言った。

「あんた、どっから来たんだ」と、前歯のひとつ欠けた老人が、ジローの顔を覗きこむように言った。「イルカがいたから助かったものの、そうでなきゃ、海の肥やしになってる所だぞ」
「扉を抜けて、ここにたどり着いた」と、ジローが言うと、船にいた人々は、とたんに目を丸くした。「どこかの土地に出ると思ったが、海中に出たので、驚いたよ」

 ――ププププ……。アッハッハハハ

 と、船上が笑いに包まれた。
「こりゃたまげたな、小僧」と、人々の奥から、顔の半分をひげで覆った男がやってきて言った。「おれ達は、この海で放牧をやっている仲間達だ。おまえが言っていることが本当なのか、嘘っぱちなのかは知らないが、はぐれた群れを見つけてくれて、礼を言う」
「礼など言われるまでもない」と、ジローは濡れた髪を掻き上げながら言った。「魔女を追いかけて来ただけだ。イルカ達には、偶然出くわした。おれはなにもしちゃいない」
 
 ――アッハッハハハ。

 と、船がまた笑いで包まれた。
「おいおまえ、気に入ったぞ」と、歯の抜けた老人がジローの肩を叩いて言った。「面白いやつだな。今どき魔女だなんてよ」
「あんた、なんていう名だい」と、袖の破れたシャツを着た女の子が言った。「あたしは青い光。このじじいは、船の行方だ」
「おれの名は」と、ジローは十七号と言いかけて、マコトの言葉を思い出し、改めて言い直した。「おれはジロー。ドリーブランドから来た」
「くっくっくっ……。もうわかったって。そのくらいにしてくれよ」と、青い光は言うと、ジローに着いてくるように首を傾げ、歩き始めた。「海に長い間浸かっていたせいで、少し頭が混乱してるみたいだな。ドリーブランドなんて、陸の昔話にしか出てこない、幼稚なおとぎ話だぞ」
「――」と、ジローは無言で、青い光の後を歩いて行った。
「ジローみたいな行方知らずは、たまに拾うんだ」と、青い光は船室に向かう階段を下に降りていった。「船乗りになりたくて陸を飛び出し、たまたま出会った船団に押しかけたとか、所属していた船が嵐で転覆し、あてもなく漂流していたとか、理由はさまざまさ」

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王様の扉(123)

2023-12-27 00:00:00 | 「王様の扉」

 いつまでも並んで泳ぐのに飽き飽きしたイルカが、面白半分にじゃれついてきたと思ったジローは、常人では考えられない力を発揮して、泳ぐピッチを上げた。
 イルカは、ジローが遊んでくれていると勘違いしたのか、自分の背中にジローを乗せると、これもまた疲れ知らずに速度を上げ、うねる波を物ともせず、白い航跡を描いて泳いでいった。
「おい、おまえと遊んでいるわけじゃないんだぞ」と、波しぶきを浴びながら、ジローは泳ぎ続けるイルカに言った。

 ――ピューイ。

 と、ジローの言葉がわかったのか、イルカは答えるように鳴いたが、泳ぎを止める様子は少しもなかった。
 向かっていた方角が同じだったため、ジローはイルカの背中に揺られたまま、大海原の中をどんどんと進んでいった。
 どのくらい進んだだろうか、波の間を吹き抜ける風の音以外に、聞き慣れない音を感じたジローが目を凝らすと、波のうねりとは違うなにかの影が見えた。
 ぐんぐんと近づいてくる影の正体は、大海原を埋め尽くすほど、多くの海獣の背中だった。海上に浮かんでは、また海中に潜ってを繰り返す背中は、見え隠れする度、蒸気機関車が吹き上げる警笛ような潮を、空高く噴き上げていた。

 ――ピューイ。

 と、イルカが甲高い声を上げると、先を行く海獣の群れが動きを止めた。
 ジローを乗せたイルカが群れと合流すると、ジローはやっと背中から下りることができた。
 イルカの群れは、ジローを乗せてきたイルカの帰りを待っていたかのように、一斉に耳慣れない曲を歌い上げた。
 全身に響く歌の余韻が消えかかる頃、幾つもの尖塔を冠した小島のようにも見える船が、こちらに近づいてきた。
 近づいてくる小島のような船の周りにも、多くの海獣の背中が見え隠れしていた。
 ジローが見ていると、船の先にいる誰かが、こちらに向かって叫んでいるようだった。
 こちらに近づいてくる大きな船は、一隻だけではなかった。やはり多くの海獣を引き連れて、大小様々な船が、小島のようにも見える船を先頭に、船団を組んでやって来ていた。

「――おーい」

 と、その声はジローに向かって叫んでいた。

「――おーい。大丈夫か」

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よもよも

2023-12-26 06:11:35 | Weblog

やれほれ。

気持ちはもう正月で

仕事で机に向かってても

気持ちの中にあるのは

雑煮と年越しそば・・・。

自分だけじゃなくってきっと周りもそんな雰囲気だから、

いついになく普通にのんびり。。

って、それだけなら普通なんだけどさ、

昨日なんか二人もコロナの陽性者が出て

隣近所の机に座ってる者も

四文字熟語で表現すれば、「戦々恐々」

確かに先週末から喉の調子が変だったりするから

少なからず席が近いやつの影響あったのかもしれんけど、

熱が出ないから、よくわからん。。

検査のしようはあるんだろうけど、

僻地で休暇とって遠くの医者まで行かんとならんって

そりゃ酷だよね・・・。

この年末にきて一日休暇取るくらいなら、

最近のキャリアがいない場所までさっさと正月休みに入ったほうがいいさ。。

はぁ。

こんな地方で毎週のように罹患者が出るって

おかしいわ、まったくXXX

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王様の扉(122)【11章】

2023-12-26 00:00:00 | 「王様の扉」

         11 大海原の民

 ――バタン。

 と、ドアが閉まると、ジローは急に息苦しくなり、光の見える上に向かって、海中を泳いでいった。

「プーッハ」

 と、大きく波のうねる海上に浮かび上がると、ジローは潮の匂いのする空気を胸一杯に吸いこんだ。
 ここは、どこなんだ――と、ジローは波に揺られながら、辺りを見回した。
 どこまでも広く青い空と、大きく波を打つ海以外、見える物はなにもなかった。
 扉の魔女がやって来た様子など、微塵も感じられなかった。扉を閉めたとたん、海中に出るなどとは、思いもしていなかった。
 ジローは、再び海に潜ると、やって来た扉を探した。
 しかし、自分がいたはずの場所を探しても、扉はどこにも見つからなかった。
 薄暗い海中の中、手探りで扉の向こう側に結わえてきた糸を探した。扉の魔女がいないとわかった以上、ここにいる必要はなかった。
 ジローは、手探りで見つけた糸をたぐっていった。糸は、なぜか海上に向かって延びていた。
 どうして、糸が海上に向かって延びているのか――。ジローには見当もつかなかった。

「プーッハ」

 と、ジローは再び、海上に浮かび上がった。
 相変わらず、青い空はどこまでも広く、大きく波を打つ海は、水平線の彼方まで延々と続いていた。
 たぐっていた糸は、海上に出るとピンと張り詰め、ジローを引っ張っていこうとするようだった。
 ジローは目を細め、見えないほど細い糸が向かっている方向を確かめると、波を縫うようにして、悠々と泳ぎだした。
 すると、ジローと並ぶようにして、一頭のイルカのような海獣が、海上に背中を見せるようになった。
 つかず離れず、互いの距離を保ちながら、海獣はジローの後を着いて来ているようだった。
 見知らぬ海獣の追跡に気がついたジローは、海中に潜って姿を確かめると、追いかけて来るのは、やはりイルカのようだった。襲いかかってくる様子がないことから、ジローは特に気にすることなく、そのまま併走を続けていた。
 しかし、なにを思ったのか、イルカが急にジローに近づいてきた。

 

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王様の扉(121)

2023-12-26 00:00:00 | 「王様の扉」

 マコトはその場所にしゃがむと、足元に何やら指先で走り書きをし、またすぐに立ちあがった。

「――こうすりゃ、どうだ」

 と、部屋中に見えていた扉の魔女の影が、あっという間に姿を消し、わずかな影だけが、いくつかの扉に向かって延びているだけになった。
「目当ての扉は減ったが、それでもここにいる人数より多いな」と、ジローはあきらめたように言った。
「ぼく達なら、できるって」と、グレイは励ますように言った。「手分けして、扉の向こうに行くんでしょ」
 マコトは、グレイを見ると言った。
「計画どおり、ここからは三人で行くぞ。でもいいか、必ず戻って来いよ」
 ジローとグレイは、大きくうなずいた。
 三人は手近にある扉を開けると、振り返ることなく、中に入っていった。

「――待っています。気をつけて」

 と、又三郎は言った。

 

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よもよも

2023-12-25 06:25:42 | Weblog

やれほれ。

今週で今年も終わりかぁ・・・。

なんてしみじみ考えてると、

今までさんざ正月休みが来たらなんて言ってたのに、

さみしくなって、それこそアレって感じで

はっきり言いたくないくらい。。

って、休日はぜんぜんのんびりしてらんないってか、

あさ自分の家のパソコン調子悪くなっちゃって、

いつもどおりに使ってたはずなのに、

ちょい電源に入れっぱでしばらく放置しちゃってたら

気がついて起動したときにはもう遅くって、

BITロッカーとか言うひねくれたシステムが起動しちゃって、

解除キーだのリカバリーだのって振り回されて、

緊張感の漂う中12時間以上悪戦苦闘だもん・・・。

思えば今年リカバリーソフト使ったの2回目だもん。。

その時も生きた心地しなかったけど、

今回も2・3年寿命縮まる思いしたわXXX

データ類は前回ので懲りて全部外部記憶装置に避けてあったから助かったけど、

本体の中に入ってたファイル類はことごとくパーだもん。

今考えてもため息しか出んわ。

みんなもBITロッカーには気をつけて。

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王様の扉(120)

2023-12-25 00:00:00 | 「王様の扉」

「魔女がどの扉を開けたか見当がつくなら、黙っているより、手分けして探しに行こう」と、ジローは言った。
「青騎士が襲ってくるかもしれないから、何人かはここに留まっていなきゃならないね」と、グレイは言った。
「扉の向こうから戻って来たら、この家が無くなってたってのは、ごめんだぞ」と、ジローは降参するように、小さく手を上げて言った。
「オレとジローとグレイで、手分けをして探そう」と、マコトは言った。「ネコさんとアオとサオリは、ポットと一緒に扉の魔女の帰りを待っていてくれ」
「私よりも、マコト殿の方がいいのでは――」と、又三郎は言った。「なにか非常事態があっても、私ではみなさんと連絡する手段はありません」
「大丈夫だよ」と、マコトは言うと、ポケットからひとつ、またひとつ、もうひとつとラジオを取り出した。「銀河放送局の放送が聴けるラジオだ。これさえあれば、宇宙の果てにいても、放送を通じて連絡が取れるだろ」
 又三郎とグレイとジローも、マコトが作り出したラジオを手に取った。
「で、ジローが扉の向こうを見たとおり、どこに繋がっているか、見当もつかない」と、マコトは言った。「もしもこの世界ではない世界に飛び出してしまうと、自分達の存在が消えてしまう危険もある。だから――」
 と、マコトは片手の指をパチンと鳴らし、目に見えないほど細い糸を取り出した。
「この糸の一方の端をこちら側に。もう一方の端を自分達に結びつけていれば、自分達の存在が消えることはない。扉を見失っても、この糸をたどっていけば、扉に戻ることができる」
「わかった」と、グレイ達はうなずいた。

「じゃあ、最後はっと――」

 と、マコトは床にしゃがむと、足元に指先でなにかを書き始めた。
「今度は、どうするの?」と、グレイはマコトの手元を覗きこんだ。
「魔女の行く先を、手っ取り早く床に聞こうと思ってね……」と、マコトは言って立ちあがると、床が薄ぼんやりと輝き、沸きあがった煙のようなぼんやりが、人のような輪郭を次々に浮かび上がらせた。
「――これは、誰だ」と、ジローは人の形をしたぼんやりを見て言った。
「この影は、床が覚えている魔女の行動だよ」と、マコトは言った。「どこまで遡れるかはわからないが、魔女の動いた足跡を立体にして見えるようにしたんだ」
「あっちにも、こっちにも、色違いの魔女様がいる」と、ポットは目を丸くして言った。
「大丈夫だ。さわっても怪我なんかしやしないよ」と、マコトは扉の魔女の影にこわごわ手を伸ばしたサオリに言った。「――見てみろ。この色の濃い影が、最近の足跡だ。頻繁に扉の向こう側と行き来しているのがわかるが、色の濃い影をたどっていけば、扉が絞られてくるはずだ」

 

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王様の扉(119)

2023-12-25 00:00:00 | 「王様の扉」

「ぼくは、魔女様のお茶の支度をするのが仕事で、魔女様がどこに行かれたのかは、わかりません」
「――」と、部屋の中に、重苦しい空気が流れた。
「恐がらなくていいよ」と、しゃがんだグレイは、テーブルの下を覗きこみながら言った。「なにもしやしないから、こっちに出ておいでよ」
 と、テーブルの脚にしがみついていたポットは、ブルブルと震えながら、怯えた様子で立ちあがった。

「みなさんは、どちら様ですか」

 ポットは、サオリとほとんど同じ背の高さだった。それが、かえって恐かったのか、はっとしたサオリは、立ちあがったばかりのグレイの陰に、また隠れてしまった。
「大丈夫だよ、サオリ。なにも恐いことなんかないってば」と、グレイは困ったように言った。
「彼らも、ねむり王様の所から来ました」と、又三郎は言った。「ポット殿はわからないかもしれませんが、壊れてしまった扉を直してもらうために、訪ねてきたんです」
 又三郎は肩から掛けていた鞄を下ろすと、中からバラバラになった扉を取り出した。
「――これ、ですか?」と、ポットは言うと、又三郎は「そうです」と、返事をした。
「魔女様の扉と、そっくりですね」と、ポットは言った。
「ここにある扉は、みんなどこかに繋がっているのか」と、マコトは言った。
「はい」と、ポットはうなずいた。「どこに繋がっているかはわかりませんが、魔女様は、出かけたい場所ごとに、ひとつずつ扉をお作りになるんです」
「――何カ所あるんだ」と、ジローはぐるりと部屋を見渡しながら言った。
「ああ。嫌な予感が当たっちまったな」と、マコトはため息を漏らした。「扉の魔女は、この中のどこかの扉を開けて、向こう側に出かけたんだろうよ。どおりで、城の連中が行方を捜しても、見つからないはずだぜ」
「――」と、ポットはうなずいた。
「いつ帰ってくるか、言っていませんでしたか」と、又三郎は言った。
「帰って来たらお茶を飲むから、用意しておいてほしいって、そう言われました」と、ポットは困ったように言った。「ぼくは、お湯を入れておくポットだったんです。ある時、いつもお出かけになっている扉の魔女様は、せっかく沸かしたお湯も、戻ってくると冷めているのに我慢できず、ポットのぼくを人のような姿に変えて、いつでも沸かしたてのお湯が飲めるようにしたんです。けれど、扉の魔女様はいつ出かけられるのか、いつ帰ってくるのかもわからないので、お湯が冷めないようにするのに頭がいっぱいで、気が気じゃないんです……」
「――」と、みんなは顔を見合わせた。
「とっくに勘づいてるだろうが」と、マコトは言った。「この部屋にある扉、もしかしたら、ほかにもあるかもしれない扉の向こう側に、扉の魔女はいるらしい。向こうから帰ってくるのを待つか、魔女が開いたと思われる扉を開けて、こちらから探しに行かなければならない」

 

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