毎週小説

一週間ペースで小説を進めて行きたいと思います

武蔵野物語 17

2008-02-03 13:16:32 | 武蔵野物語
ゆりこは結局誠二の家に泊まり、翌土曜日の昼過ぎに自宅に戻った。誠二の家を出る時辺りを見回したが、静かな住宅街で人の気配も感じられず、西国分寺駅までの真冬の帰り道が、また一歩誠二の中に踏み込んだ自分に、新たな決心を確立させていた。
家に父は居なかったが、食卓にメモが置いてある。
用事ができたので昼間は出掛けているが、18時過ぎには 椿 に行っているので来てくれないか、今日は空いているだろうから 
と書いてあった。
お店のママ、というか女将さんを紹介してくれるのだろう、父もいよいよ腹を決めたらしい、やはり嫉妬に似た感情がよぎったが、そのせいでゆりこもより積極的に誠二に接近していったのだから、踏ん切りをつけるきっかけにはなったのだ。
夕方になり、聖蹟桜ヶ丘駅のデパートで、菓子折りを一つ買って府中に向かった。
18時半頃お店に着いたが、父のほかにお客はいなかった。
カウンターの一番奥に座り、中には女将が一人で向かい合っている。
「やあ、早かったね、用事は済んだの?」
「うん、きょうはもう何もないから」
「ママ、娘のゆりこです」
「この間お会いしました、改めまして、雅子です、よろしくお願いします」
「ゆりこです、よく私のこと分かりましたね」
「以前に写真を見せて頂いていたので、すぐに気がつきました」
「この店はね、お馴染みさんでもっているんで、初めてのお客さんは目立つんだよ」
「お父さんは、いつもゆりこさんの話ばかりするんですよ」
「私の将来とか?」
「ええ、早く花嫁姿を見たいって、でもこんなに綺麗なのに、お相手がいないわけはないわよね」
「そんな、まだそこまでは」
「ゆりこはこの頃色っぽくなってきたよな」
「お父さん、酔ってるの」
「正直に言ったまでだよ、楽しみだな」
「賢さん、ゆりこさんから栗饅頭頂きましたよ、いま召し上がる?」