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武蔵野物語 20

2008-02-09 21:51:17 | 武蔵野物語
誠二の話を聞いた後自宅に戻ると、父がせわしなく何か準備をしている。
「お父さん、どうしたのですか?」
「明後日30日から元旦まで出掛けてくる、帰りは2日の夕方になりそうだから、ゆりこもゆっくりするといいよ」
「雅子さんとご一緒ですか」
「まあ、そういうことに」
「いいですねえ、仲むつまじくて」
「だから、ゆりこも自分の事だけ考えて、な」
私はそんな楽しそうな年越しになりそうもありません、と言いたかったが、そうですね、と答えておいた。
大晦日は父の期待?通り、誠二をゆりこの家に呼ぶ事にした。
聖蹟桜ヶ丘駅から一緒にバスに乗り、桜ヶ丘公園の少し手前で降り、ひじり坂を聖ヶ丘橋に向かって腕を組みながら歩いて行く。今日も通りに人の気配はなかった。
「私、最初にあなたとあった日、図書館に行く途中、公園で絵を描いている後姿を見ていたの、そうしたら戻ってきた時あなたに道を聞かれたでしょう、なにか縁みたいなものをその時すでに感じていたの」
「僕はきみに話しかけた瞬間、胸の中で音がしたんだ」
「どんな音?」
「どんなって・・やはり、ときめきっていうのか、鳴ったんだよ、それで少しでも多く話さなければと思って道を聞いたんだけれど、何処に行くかはどうでもよかったんだ」
「この坂道のお蔭ね」
「いい場所だね、いつもこうやって歩いていけたらなあ・・・」
「二人の未来はあると思う?」
「それは二人でつくっていくものでしょう」
「そういう状況になっていればね」
「努力します、これからあちらと話し合いの機会をできるだけ持ち、僕の考えを伝えていきます」
「きっと奥さんは別れてくれないわよ、女としての勘だけど、だから無理をしたり、あせったりしないで冷静に考えてね、私は、いまはこれで充分だから」
ゆりこは、このゆるやかに長く続く坂道を、二人の行く末になぞらえていた。

             -第一部-