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唐木田通り 29

2007-01-10 04:20:02 | 唐木田通り
「お疲れ様でした、何か分かりましたか?」
由起子は早速聞いてきた。
「少しは分かりましたが、心配いりませんよ、あなたの身辺にはあまり影響はなさそうですから」
沢村は、達彦は極秘書類の単なる運び屋的な仕事を任されていただけで、問題が公になったとしてもあまり大きな制裁は受けないだろうと説明した。
「そうなの、よかった、勇み足で岐阜まで来てしまったわね」
「思ったより、いい結果でほっとしました」
「有難う、本当に」
そう言うと由起子は身を投げ出す様に沢村に寄りかかり、激しく唇を求めてきた。
心細さと安心感が積極的な行動を促したのだろうか。沢村は動揺した。
翌日、二人はロープウェイに乗り岐阜城に向かった。
斉藤道三、織田信長ゆかりの地と看板が建っているすぐ上にお城が見える。
お城の中には、本でよく見かける細面の信長の絵が掛けられていて、下を覗くと急な分だけ眺めがとてもよい。
金華山を囲むように長良川が流れ、野球場、競技場、ホテル等が見える。
「一望千里ね、ホテルがあんなに小さく見える」
「昔の人は生活物資をどうやって運んだのだろうね」
「そうね、きっと大仕事だったのに違いないわ」
この日も今年一番といえる暑さだったので、公園からホテルへ戻る予定にしていたが、由起子の提案で、昔の町並みを見る為寄り道をすることにした。沢村は後からついていったのだが、狭い川の近くに来て、住所を何気なくみた時はっと気づく事があった。村瀬から向井智子の住所を聞き出していたのだが、それがこの辺りなのである。
無論、すれ違ったとしても誰も顔を知らず、何も気にすることはないのだが、向井と彼女の小さな子供が手をつないで歩いているのでは、とつい周りを見渡してしまった。
「良一さん、何処を見ているの?」
由起子の問いかけも耳に入らなかった。


                  -第三部-


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