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2017-04-19 | 村上春樹




村上春樹
『ラオスにいったい何があるというんですか?』★★★


紀行文集

挫折再読
記憶はアイスランド
行ってみたい行こうよって過去の話
でも一度決めた国っていつまでも気になるもの。


細かいんだけど、言葉の並びがちがうと気になる。

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いったい何がラオスにあるというのか?


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スナイフェルネース半島は天候はかなり惨めな代物だが、その風景が我々を失望させることはない。広く知られた観光名所みたいなものもとくになく、したがって訪れる旅行者もそんなに多くはないので、いかにも素朴、観光ずれしていない。南側には比較的平坦な海岸線が続き、海鳥が多く、バードウォッチングに適している。北部沿岸にはいくつかの息をのむような美しいフィヨルドがある。大昔に氷河によって削り取られた断崖、ひっそりとした静かな入り江、赤い屋根の小さな教会、どこまでも広がる緑色の苔、低く速く流れるくっきりとした雲、不思議なかたちをした物言わぬ山々、風に揺れるソフトな草、句読点を打つように思い思いに散らばった羊たち、焼け落ちた廃屋(なぜだか焼け落ちた家が多い)、冬に向けてしっかりと束ねられた干し草。それらの風景は、写真に撮ることさえはばかられた。そこにある美しさは、写真のフレームにはとても収まりきらない種類のものだったからだ。我々の前にある風景はその広がりと、そのほとんど恒久的な静寂と、深い潮の香りと、遮るものもなく地表を吹き抜けてく風と、そこに流れる独特の時間性を「込み」にして成立しているものなのだ。そこにある色は、古代からずっと風と雨に晒されて、その結果できあがったものなのだ。それはまた天候の変化や、潮の干満や、太陽の移動によって、刻々と変化していくものなのだ。いったんカメラのレンズで切り取られてしまえば、あるいは科学的に色彩の調合に翻訳されてしまえば、それは今目の前にあるものとはぜんぜん別のものになってしまうだろう。そこにある心持ちのようなものは、ほとんど消えてしまうことになるだろう。だから我々はそれをできるだけ長い時間をかけて自分の目で眺め、脳裏に刻み込むしかないのだ。そして記憶のはかない引き出しにしまい込んで、自分の力でどこかに持ち運ぶしかないのだ。








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「もう求めません」


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