マネジャーの休日余暇(ブログ版)

奈良の伝統行事や民俗、風習を採訪し紹介してます。
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松尾当家の祝い唄

2011年11月26日 07時44分58秒 | 山添村へ
奉納を終えた要人たちは再び当家の家に戻っていく。

そこでは弓張り提灯と幣を付けた笹を持つ二人の親戚と長老が待っていた。

一人ずつ笹を受け取る要人たち。

整列をすれば長老が「あーきのくーにの いつくしまの べんざいてん」と囃せば皆は「あーきのくーにの いーつくしまの べんざいてん」と唱和する。

次の台詞は「ねじろのやなぎ あらわれにけり」。

その次が「げにも そよそよ いざや おがまん」と唱和する。



家に上がるまでこの目出度い台詞を唱和しながら練り歩く。

「ウタヨミ」と呼ばれている所作である。

こうしてようやく家に辿りついた要人たち。

縁側から座敷に上がっていく。

中央にはお米、小豆に紙片を盛った膳が置かれている。



そして始まった福の種撒き。

笹を手にして振りながら一同はそれを中心に右回りをする。

「福の神ごーざった」と長老が発声すれば要人たちは「福の神ごーざった」と唱和する。

「福の種を撒きましょう」と言えば皆は「福の種を撒きましょう」と唱和する。

「何の種を撒きましょう」、「福の種を撒きましょう」と目出度い台詞を囃子ながら時計回りに三べん回る。



「あー めでたいな」を入れてと「何の種を撒きましょう」、「福の種を撒きましょう」と手にしたお米とアズキを座敷に振りまく。

五穀豊穣の目出度い台詞が当家に響き渡った。

そういった所作を繰り返すこと三周。

「そりゃあ めでたいな めでたいな」と囃して祝う当家の座敷。

最後に「おめでとうございます」。

笛が吹かれてドンドンドンと太鼓、鼓の鳴らし締めで終えた。

隣村の室津や桐山でも同じような所作がある。

その唄を当家さんは「イワイコミ」と呼んでいる。

祝いの唄を歌いながら上がり込んでくるからその名がついたのかどうか判らないが、その呼び名でなく「オドリコミ」と呼ばれているのは室津と桐山。

また、菅生では伊勢代参の人たちが戻ってきたら「ヤマ」を立てた講家のヤド。

そこで祝宴している最中に披露されていた菅生の「おかげ踊り」のときも「オドリコミ」と呼んでいる。

呼び名に違いはあるもののいずれも目出度い祝いの唄を言うのだろう。

祝いのお米とアズキに紙片と笹の葉が散らかった座敷は福の種で一面広がった。

その場を奇麗に方付けられたら慰労の場に転じる。

当家の座敷はご馳走の皿がずらりと並ぶ。

祭りを果たした要人の席はパック詰め料理が配膳された。

慰労を込めた盛りつけだ。

酒を配るのは当家の親戚筋。



お酒がはいって歓談は盛り上がる。

そのとき突然に大きな塩焼き鯛を持った大皿を持つ親戚が登場した。

膳盛りの最中に行われるダイビキ(大引)である。


<ダイビキ写真は当家の東辰弥氏提供>

大魚の鯛を大皿に盛った器を掲げて宴の真ん中を歩く親戚筋。

皿を持って左右にゆらりゆらりと振るように前に出る。

要人たちは手を叩いて謡いをする。

「あれわいせー これわいせー」と手拍子で囃子たてる目出度い場に行われるダイビキであった。

(H23.10.15 EOS40D撮影)