荻野洋一 映画等覚書ブログ

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戦前の成瀬、戦後の清水(雑感)

2007-12-06 10:51:00 | 映画
 HDDに録り貯めていたスカパー!放送作品を何本かまとめて見る。成瀬巳喜男『女優と詩人』(1935)、清水宏『母を求める子等』(1956)、三隅研次『かげろう笠』(1959)、そして何本かの韓国映画など。すべて初見なり。

 『女優と詩人』は、松竹蒲田では小津の二番煎じと疎まれ、トーキーを撮る機会に恵まれなかった成瀬巳喜男のP.C.L.移籍第2作で、成瀬の予てからの希望だったトーキーを撮る喜びに満ちた、軽妙洒脱なる小品。五所『マダムと女房』をもっと自然にした感じと言ったらいいだろう。

 問題は、清水宏『母を求める子等』の方である。本作がつくられた1956年といえば、青雲の志を共に抱いてきた親友の小津安二郎がすでに最高の巨匠に君臨する時代になっており、これとは対照的に清水の方は、大映で三益愛子主演の〈母もの〉を撮らなければならないとは、という憐れさが漂う。先日シネマヴェーラ渋谷で上映された、やはり三益愛子主演の『母の旅路』(1958)はよりいっそう敗残の色が濃い印象があり、いささか物悲しくなったが、きょう見た『母を求める子等』はじつはそう悪いものではない。いやむしろ、息子を亡くしたばかりの母親が、悲しみをやがて高次元の母性に昇華させ、孤児院の寮母として生きる決心をするラストシーンなど、よく描けていると思う。

 戦後の清水にも良い作品はあるにはあるが、晩年のフィルモグラフィでは総じて、「子どもの扱いに長けたベテラン監督」という程度の烙印を押されてしまっている。とはいえこれは、後年に生きる若輩の徒が勝手に抱いた、誠に失礼千万なる感慨であることは間違いない。