荻野洋一 映画等覚書ブログ

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『アディクトの優劣感』 藍河兼一

2007-12-26 07:13:00 | 映画
 『アディクトの優劣感』は、高画質のデジカメで連続撮影したスチール写真をアニメーション加工した「デジタルフォトメーション」なる手法で作られた作品だが、83分の上映時間を、この単調な手法でよくもたせていて感心した。ドラッグ、セックス、シンクロニシティなどいろいろな事象を騒がしく頽廃的に語ってはいても、物語の根幹は昨今の純愛ものから遠く離れたものではなく、またそれがある程度奏功してもいる。
 池尻大橋駅、裏原宿、等々力、築地市場…などとはっきり東京の地名をテロップとモノローグで出しているのに、実際は映っている看板などに見慣れない漢字の羅列が見える。台北でロケされた画像をそれとなく大量にミックスしているようだ。特に目新しい発想というわけではないだろうが、台北=東京の代置作業の中に、作者たちのこの2都市への愛情が感じられ、これも好感した。

 スタッフ・クレジットを見て、まったく誰一人として知る名前がない。私の不勉強のせいなのか、若い才能が前触れなく登場する地殻変動が日本の映像業界に起きているのか、どちらなのかはわからない。とにかく、クラブ常連同士みたいな気の合ったアニメーターやアーティスト仲間で商業映画まで作ってしまうフットワーク、友情ネットワークは、単純に羨ましい。本作の評判がどうであれ、がんがん活動を続けていってほしいものだ。


P.S.
 製作者サイドが謳う「新感覚の映像未体験ゾーン」という惹句には、誰もが疑問を抱くことだろう。そう、もちろん「デジタルフォトメーション」なる手法が、45年も前にクリス・マルケルによって「フォトロマン」という名で試みられた方法(『ラ・ジュテ』1962)そのものであることは、少しでも映画を好きな人なら誰でも知っている事実だからである。『アディクト~』は高精細画像とクラブVJ風のモンタージュを売り物としているが、白黒のボワボワとした写真だけでできている『ラ・ジュテ』よりも新しいことは何もない。また、そのことは別段、『アディクト~』の欠点でもないのである。


渋谷円山町・Q-AXシネマで上映中
http://www.addicts-movie.com/