荻野洋一 映画等覚書ブログ

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『椿三十郎』 森田芳光

2007-12-23 10:59:00 | 映画
 私の黒澤明観というものはなぜか、少年期より常に曖昧模糊としたままなのであるが、変わらないことが1つだけある。それは、黒澤明その人はすごいと思うのだが、黒澤ファンを自認する人のことがどうしても好きになれない、ということだ。

 『椿三十郎』は言わずと知れた黒澤明1962年の名作で、名画座なんかで見ると拍手喝采が起きたりもする痛快作である。そして今回のリメイクは、オリジナル版の非常に優れたシナリオをあまり改竄していないおかげで、かなり面白く見ることができる。
 だが、この面白さがくせ者なのである。この新版の面白さは演出でも俳優でも撮影でもなく、あくまでシナリオの面白さであって、その点では黒澤映画の紛うことなき面白さを改めて再確認できるであろう。とはいえ、森田芳光監督以下作り手側としては、「他人のふんどし」呼ばわりされるのは、あらかじめ織り込み済みのことであるだろうし、それ自体は特にこれといった感想はない。

 だが私が最も嫌うのは、「それ見たことか、良い映画は良いシナリオから生まれるのだ」といった論調が以前にも増して勢いを得ることだ。いくら分からず屋の私でも、良い作品を撮るために良いシナリオが望ましいことくらいは理解できるし、それに反対するほど馬鹿ではないと思っている。
 警戒すべきは、シナリオ中心主義、絵コンテ至上主義が、黒澤明の威光を借りて無反省に蔓延することだ。今回の新版『椿三十郎』は、そうした傾向に拍車をかける駆動装置の役割を果たす可能性がある。


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