荻野洋一 映画等覚書ブログ

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『砂の影』 甲斐田祐輔

2008-01-20 02:06:00 | 映画
 自主映画界のベテラン甲斐田祐輔の新作『砂の影』は、撮影・たむらまさき、音響効果・菊地信之という豪華布陣で撮られた。興味の焦点はどうしても、この両人が8mmフィルムというレガシー・メディアをどう扱うかというところに向かってしまう。

 若手アマチュアの主流がDVとなって久しいが、8mmもまだまだ愛好者は多く、生産と現像サービスが綿々と続行しているのだという。本作はおそらく富士シングル8の高感度フィルムを使用しているかと思われるが、一見して驚くのは、全篇ノイズだらけのぼわぼわした映像である点だ。
 私たちが学生時代に8mmを使用した際は、メカスかゴダール気分で大いに背伸びし、私自身の8mm作品や私が撮影を担当した暉峻創三の『この村の伝承』でも実際、本作よりずっとクリアな映像を得ていたはず。しかし私の過去の作業は余裕のなさゆえのものであったに過ぎない。
 つまり、むしろ『砂の影』では逆に、より積極的に8mmという媒体のもつ不明瞭さと戯れてやろうという意図があるのだ。時を超えたこの顛倒に戸惑い以外の何を感じていくか? そこがこの作品を見る勝負所だと個人的には感じた。

P.S.
 本作とは直接関係ないが、ひとつだけ付記しておきたい。ビデオ編集のエフェクトによく “フィルムノイズ” の類が出回っているが、プロのTVディレクターやビデオ・アーティストといった人々がノスタルジックな映像効果を得る場合に、この手のエフェクトを衒いなく多用している。恥というものを知ってほしい。


2月2日(土)よりユーロスペースにてレイトショー予定
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