遺す言葉

つぶやき日記

遺す言葉(497) 小説 希望(21) 他 人生の時

2024-05-12 12:00:34 | 小説

             人生の時(2024.5.4日作)


 
 日々 日毎 かつて眼に 耳に 馴染んだ
 あの人 この人の 訃報が報じられる
 今日この頃 自身の島の
 削り取られて行くかの如き 寂しさ 心細さ
 日々 日毎 過ぎて行く時間 人生の時
 眼前に広がり 見えて来るものは
 深い谷間 死の断崖
 今の時を彩る色彩は 最早 無い
 時を彩る色彩は 無い
 それならせめて
 自身の豊かに生きたあの頃 
 若かりし頃の思い出
 懐かしく 彩り豊かだった日々の
 思い出を胸に その
 思い出と共に 日々 日毎
 削り取られて行く 人生の時
 今という時の糧として 今は唯
 思い出の中に生きて行く 
 思い出のみを抱き締め 見詰めて 日々 日毎
 失われて行く色彩の中 この人生の時を染め
 生きて行こう




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              希望(21)





「それはまた、別に相談するよ」
 北川は言った。
 修二はだが、その時には、ふと湧き上がった怒りの感情に対する冷静さを取り戻していた。
「とにかく、俺はそんな事したくないよ。何かあって店に迷惑を掛けたりしたくないから」
 と、きっぱりとした口調で言った。
 頭に浮かんだのはやはりマスターの存在だった。
 日頃、穏やかに暮らしてゆけるのもマスターの心遣いがあるからだーー感謝の思いが修二の心には根強くあった。
 そのマスターに迷惑だけは掛けたくなかった。
 北川は修二の言葉を聞くと、微かな期待が裏切られたかの様に苛立ちを滲ませて荒い口調で言った。
「チェッ、お前(め)えも話しが分かんねえなあ。俺達はクロちゃんがあんな事になったんで、仕返(けえ)しをして遣りてえんだよお。奴等のボスをなんとしてでも痛め付けてやんねえ事には気が収まらねえんだ。お前えにもその気持ちは分かんだろう」
 無論、その気持ちの分からない事は無かった。それでも修二は静かに、
「でも、おれはチームに入ってないし」
 と言った。
「だけっど、クロちゃんは知ってんだろうよ。クロちゃんのお袋さんが可哀そうだと思わねえのか」
 責める様に北川は言った。
 何んで、お袋さんまで持ち出さなければならないんだ、修二はそう思いながらも黙っていた。
「俺達もいろいろ、チームの連中に当たってんだけっど、これはと思う奴等はみんな面(つら)を知られちゃってんだよ。その点、お前えなら面(めん)も割れてねえし、考(かんげ)えて置いて貰いてえんだよ」
 北川は言った。
 その夜はそれで話しは終わった。
 北川が切る前に修二は受話器を置いた。
 あい奴の遣り方は何時も強引だ、と腹を立てていた。
 階段を上がって部屋へ戻ると、風呂へ行くのも面倒臭くなって隅にある布団を引っ張り出して広げた。
 パジャマに着替えると、そのまま布団の上に転がった
 裸雑誌を開いて見る気にもなれないままに天井を見詰めていると、クロちゃんのお袋さんが可哀想だと思わねえか、と言った北川の言葉が思い出された。
 クロさんは病気で痩せ細ったお袋さんの事を思いながら、死んでいったんだろうかーー 。
 口が重く、髪をモヒカン刈りにして一見、近寄り難い感じのクロちゃんだったが、修二の心の中では奇妙に懐かしく思い出された。
 たった二言三言、言葉を交わしただけで、じゃあな、有難う、と言ってオートバイの音と共に夜の中に消えて行ったクロちゃんの姿が郷愁を誘った。
「あのお袋さんはどうしているんだろう・・・」
 修二は口に出して言った。
 誰かが面倒をみているのだろうか ?
 だが、修二が心配しても始まらない事だった。
 自分が生きる事だけで修二には精一杯だった。

 北川は一週間が過ぎても何も言って来なかった。
 女将さんの嫌がらせは相変わらず続いていた。
  それでも以前程、露骨ではなくなった。
 時折り、修二の腕や脇腹をつねったりして修二を驚かせた。
 鈴ちゃんはそれを眼にして笑いを堪え、修二に流し目を送った。
 修二は腹を立てて鈴ちゃんを睨み返した。
 女将さんが再び、修二の部屋を訪ねて来たのは、そうした日々の中での夜の事だった。
「修ちゃん、修ちゃん」
 表通りから呼ぶ声がした。
 修二が女将さんの声だと気付いて二階の窓から顔を出すと、
「開けて入るわよ」
 と女将さんは言った。
「何か用ですか」
 返事をしながら修二は嫌悪感に捉われた。
 何しに来やがったんだ !
 女将さんを受け入れる気持ちは無かった。
 修二が顔を引っ込め、窓を閉めると鎧戸の引き上げられる音がした。
 修二は部屋を出て階段の上に立った。
 女将さんの姿が下に見えた。
 女将さんはすぐに階段を上がって来た。
 この前と同じ様に薄化粧をしていた。
 身体に密着した薄い桜色のセーターを着ていて、黒いタイトスカートを穿いていた。
 胸の隆起がセーターを膨らませているのが修二の視線を戸惑わせた。
 その隆起が嫌がらせと共に自分の身体に押し付けられた時の感触が蘇った。
 女将さんは何かの入ったスーパーマーケットの青いビニール袋を手にしていた。
 階段を上がって来て修二の前に立つと、
「長野県に居るお友達がリンゴを送って来てくれたから、持って来て上げたのよ」
 女将さんは言って、袋の中を見せ、そのまま部屋へ入った。
 日頃の不機嫌さを感じさせない打ち解けた口調だった。
 修二は女将さんの突然の変身に戸惑った。
「何をぼんやり立ってるのよ。これ、四個あるから食べなさい」
 女将さんはまだ廊下に立っていた修二に言って袋を差し出した。
 修二はようやく部屋へ入って戸惑いながら「すいません」と言って受け取った。
「バカ、何をうろうろしてんのよ。もう、あんたなんか口説かないから心配しなくたって大丈夫よ」
 女将さんは笑いながら言った。
 修二は黙ったまま小さく頭を下げた。
「どお ? 何か、一人で困った事は無い。もし、有ったら言いなさい。遣って上げるから」
 部屋の中を見廻しながら女将さんは言った。
「はい」
 修二は短く答えた。
「相変わらず、あんな雑誌を見てるんでしょう」
 女将さんは散らかった雑誌に眼を移しながら、なんとなく媚びを含んだ様な眼差しで修二を見詰めて言った。
 修二は顔を赤くして黙っていた。
「全く、融通が利かないんだから」
 柔らかな甘さを含んだ口調で女将さんは言った。
「心配しなくたって大丈夫なのに」
 修二は改めて女将さんが迫って来る様な気がしてなんとなく身を引いた。
 女将さんはそんな修二に気付いて、
「修ちゃんって、臆病なのね」
 と、笑みを含んだ声で言ったが、その顔がなんとなく引き攣っている様にも見えた。
 修二は黙ったまま俯いていた。
 女将さんはそれで気持ちを切り替えた様に、
「わたしはもう帰るけど、悪戯なんかしていないで早く寝なさい」
 と、言って、何事も無いかの様に部屋を出るとそのまま階段を降りて行った。
 修二は鎧戸の降りる音がして、女将さんが帰ったと知ると猛烈な腹立たしさに捉われた。
 なんとなく、自分が弄ばれている様な気がして来て女将さんへの新たな腹立たしさを覚えた。
「何が、リンゴを持って来てやったなんだ ! クソ婆が」
 怒りに捉われたまま女将さんが持って来たリンゴを袋ごと、傍にあった汚れた紙屑などの入ったごみ箱に投げ込んだ。
 翌日、女将さんは人が変わった様に修二に優しかった。
「おはよう、修ちゃん」
 と言った挨拶の言葉にも棘は無くて柔らかかった。
 修二はだが、そんな女将さんの変身にまた、嫌な思いを抱いて気持ちが落ち着かなかった。
 鈴ちゃんは女将さんの変身には逸早く気付いていた。
「この頃、女将さん随分、修ちゃんに優しいね」
 と、数日後にはからかい半分の冗談を言った。
「知らないよ、そんな事」
 修二はムキになって言い返した。
「女将さんと出来たの  ?」
「知らないってば ! 煩いな」
 修二は言った。
「そうやって怒るところを見ると、かえって怪しいわよ」 
 鈴ちゃんは相変わらずからかい半分で言った。
「チェッ、何んにもある訳ないだろう.色気違い !」 
 修二は捨て台詞を残して鈴ちゃんの傍を離れた。

 修二の予感は的中した。
 女将さんは何かに付け、頻繁に修二の生活に係わって来た。
 頻りに果物や菓子などを差し入れてくれた。
 時には下着のシャツなどを買って来てくれたりした。
 修二に掛ける声からも以前のとげとげしさが無くなっていた。
 修二は必然的に鈴ちゃんの眼を気にしないではいられなかった。
 なんと言って揶揄われるか分からない。
 自分にその気が無いのに揶揄われるのは割に合わない気がした。
 修二には、一日の内に自分一人で気ままに過ごせる夜の時間さえあればそれで良かった。
 生身の女など必要なかった。
 人間の持つ煩わしさだけが修二には思われた。
 雑誌に見る裸の女達は何時も修二に優しかった。
 修二が見詰めれば何時も優しい微笑みを返してくれた。
 彼女達が修二の心を傷付ける事はなかった。
 修二を蔑み、嘲(あざけ)り笑う者もなかった。
 夜毎、修二は好みの女達と心のままに遊ぶ事が出来た。
 時として修二は、あまりに執拗に思える女将さんの親切に、「いい加減にしてくれ !」と叫びたくなる事もあった。
 それでもさすがにその言葉は口に出来ずに、不満の表情だけが顔に現れたりした。すると女将さんは、
「何よ、人がせっかく親切にして遣っているのに、少しも嬉しくないみたいね」
 と腹立たし気に言った。
 修二に取ってはだが、女将さんのその親切が迷惑だった。
 第一に鈴ちゃんの眼が気になったし、自ずとマスターの眼も意識せずにはいられなかった。
 マスターは依然として、修二が此処に来た時のままに親切で優しかった。
 それでも鈴ちゃんの眼に付く事が、マスターの眼に届かないはずが無いと思うと気持ちは休まらなかった。
 何時だったか、鈴ちゃんが言った様にマスターはやっぱり身体が駄目で、それで女将さんの行動を知っていても、眼をつつぶっているのだろうか、と思ったりした。


            六


 クロちゃんの四十九日の翌日、北川が久し振りに<味楽亭>に顔を見せた。





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               takeziisan様



                有難う御座います
               チングルマ 羽毛状 初めて見ました
               紅葉も美しい チガヤは懐かしいですね
                カロライナジャスミン 初めて知りました
               花付きの様子がハゴロモジャスミンと同じです
               その白い花も今では茶色に・・・中に残る数少ない花が
               それでも未だに強い香りを放っています
               また一つの季節が過ぎた そんな感覚です
                栴檀の花は子供の頃を蘇らせてくれます
               門の所の二本の栴檀がいっぱいに花を付け
               実を稔らせた事を思い出します
               冬になるとシギが来て甲高い声で鳴きながら
               黄色くなった実を啄んでいました 懐かしい思い出です
                キジ 来ましたね なんだかこれも奇妙に懐かしい気持ちで拝見しました
               美しい鳥です 国鳥ですよね 訳もなく不思議に誇らしい気分になります
               やはり その美しさのせいでしょうか
                蕗 我が家でも収穫 手間を掛けて煮ました
               昨年も 書いたと思いますが わたくしはこの葉が好きです ちょっと苦みがあって               
               みんなは嫌いますが
               タマネギ 小松菜 今年は高い ! 全般に野菜が高いです
               大腸ガン経験者として日頃 多くの野菜を採るようにしていますので
               二倍にも近い値上がりは年金生活者には思わぬ負担です
               それなりの労力を必要とするとはいえ 気ままに新鮮な作物を収穫出来る
               生活を羨ましく思います
                今回も美しい花々 春爛漫の気分です
               有難う御座いました