水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

残月剣 -秘抄- 《残月剣①》第十五回

2010年08月01日 00時00分01秒 | #小説

         残月剣 -秘抄-   水本爽涼

          《残月剣①》第十五
そして徐(おもむろ)に、傍(かたわ)らへ置いた一振りの刀を手にした。その刀は錦織の袋に納められていた。
「これを…そなたに授ける。刀名を村雨丸という。比類なき名刀ゆえ、心してのう…」
 左馬介は思わず両手を差し出し、幻妙斎が手にした村雨丸を受け取っていた。
「身に余る光栄、かたじけのう存じまする…」
 刀を手にしたまま平伏し、左馬介は感激の声を出していた。幻妙斎はそれには答えず、左馬介に背を向けた。そして、また元のように両眼を閉ざすと無の人となった。左馬介は師を眺めつつ立ち上がると、袋入りの村雨丸を片手に携え、岩棚を下りようとした。
「儂(わし)が消ゆる後(のち)、その刀は使うがよい…」
 刹那、背に声を受け、左馬介は歩みだした足を思わず止めた。しかし、幻妙斎の言葉の意味が解せず、答えようがない。━ 儂が消ゆる後 ━ とは、どういう意味なのか? それが分からない
左馬介であった。だが、このまま返答せず下りる訳にもいかない。
「ははっ!」
 小声でひと言、そう云うと、左馬介は早足に岩棚を下りていった。


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スピン・オフ小説 あんたはすごい! (第三十八回)

2010年08月01日 00時00分00秒 | #小説
   あんたはすごい!    水本爽涼
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                             
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                              
    
第三十八回
「面白くはありませんが、まあ興味をお持ち戴ければ、それで結構です…」
 沼澤氏は終始、冷静である。
「え~と、それじゃ次は私ね?」
 早希ちゃんは席を立つと、私達が座るカウンターの方へ近づいてきた。
「じゃあ、ママさんと同じように、玉の正面へ立って下さいますか?」
「ええ、いいわよ」
 早希ちゃんはママが立つ酒棚側へ入ると、臆することなく水晶玉の前へ立った。沼澤氏は水晶玉をじっと覗(のぞ)き込むと、そこに映った早希ちゃんの姿を目を細めて凝視(ぎょうし)した。そして、ママにやった時と同じような仕草で約二分、長い祝詞(のりと)のような長文を読み始めた。その後も全てがママの時と同じ繰り返しで、冥想の後、静かに両の瞼を開けた。
「あなたはどうも、玉の事実を信じておられぬようです。当然、玉もそれが分かっておるのか、あなたの運を探ろうとはしていません。というより、むしろ探ることを拒絶しているのです。よって、あなたの未来運は予測不可能です」
「沼澤さん、それは、この玉の事実を信じる者のみが占えるってことですか?」
「ええ、まあそうです。半信半疑でもいいのですから…。信じて戴ける方は玉もよく承知しております」
 早希ちゃんは小声で、「…やってらんないわっ」と、投げやりぎみに呟くと、元の席へと戻って座った。

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