水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

スピン・オフ小説 あんたはすごい! (第六十回)

2010年08月25日 00時00分01秒 | #小説
   あんたはすごい!    水本爽涼
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                         
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                              
    
第六十回
「異変とは鼻持ちならない話ですなあ。そこいら辺りを詳しく…」
「はい…。まず最初は、これはまあ偶然といや偶然なのかも知れないのですが…。私の仕事上のことでした。お得意先の接待がある日、私は風邪ぎみで体調不良だったのですが、当然、今夜の接待は嫌だなあ、と思っておりました。すると、先方から今夜は都合が悪いので辞退したいという電話が入り、私としては、ホッとしたと云いますか…」
「まあ、よくある話といやあ、よくある話でしょうな。…それで?」
「ええ…。それで二番目の話に繋(つな)がる訳ですが、その夜、時間が空いたもんで、飲みに出たんですよ。風邪を飛ばす意味もありまして…」
「ほお…、みかんでしたかな?」
「はい、そうです。で、一人ですから、ボックスじゃなく、カウンターへ座りましたが…」
「何ぞ、ありましたか?」
「いや、別に何これがあったということじゃないのですが…。私にだけ見えたんですよ」
「何がです?」
「ああ、そうでした。私の座っている正面には例の水晶玉が、その夜も飾られていました」
「沼澤とか云う人が置いていったというやつですな?」
「はい、そうです。その玉が異様な光を放つのが私には見えたのです。本来、紫水晶の玉ですから、紫がかって見えるのです。それが…」
「ほお、それが!」
 禿山(はげやま)さんの身を乗り出して聞く癖が出た。

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残月剣 -秘抄- 《残月剣②》第四回

2010年08月25日 00時00分00秒 | #小説

        残月剣 -秘抄-   水本爽涼

          《残月剣②》第四回

 声を掛けられ、少し気を削がれた左馬介は、ひと息入れることにした。何度もやる内に、自分なりに形(かた)が固まってきたように左馬介には思えた。しかし、一つ気掛かりなことがある。一回転した刃(やいば)を右上方から左下方へ袈裟懸けに振り下ろす瞬間だ。一回転した刹那、突きを入れられはしまいか…と、不意に思えたのである。打突の好機には三つの許さぬ所があるのだ。その一に出鼻であり、その二に受け狭間(はざま)、その三に止まり所である。一は動作を起こそうとする瞬間であり、その二は相手が打突を受け止めた瞬間、三は動きが一時、滞った瞬間である。他にも退く所、技の尽きた所が加わる。変形させた上段から一回転させた時の間合いは、許さぬ所の、その一に該当するのだ。動作を起こそうと刃を一回転させたと同時に突かれないか…と、左馬介は気になったのである。一度(ひとたび)、気になったという意識は、もう消せるものではない。というより、それは重大な問題なのであって、左馬介にとって解決せねばならない課題なのである。左馬介が閃(ひらめ)く対抗策は、突かれる隙を与えぬ迅速な剣の捌(さば)きだった。特に、変形させた崩し上段の構えから袈裟懸けに斬り下ろす迄の迅速な捌きが必要だ…と左馬介には思えた。


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