あんたはすごい! 水本爽涼
第六十回
「異変とは鼻持ちならない話ですなあ。そこいら辺りを詳しく…」
「はい…。まず最初は、これはまあ偶然といや偶然なのかも知れないのですが…。私の仕事上のことでした。お得意先の接待がある日、私は風邪ぎみで体調不良だったのですが、当然、今夜の接待は嫌だなあ、と思っておりました。すると、先方から今夜は都合が悪いので辞退したいという電話が入り、私としては、ホッとしたと云いますか…」
「まあ、よくある話といやあ、よくある話でしょうな。…それで?」
「ええ…。それで二番目の話に繋(つな)がる訳ですが、その夜、時間が空いたもんで、飲みに出たんですよ。風邪を飛ばす意味もありまして…」
「ほお…、みかんでしたかな?」
「はい、そうです。で、一人ですから、ボックスじゃなく、カウンターへ座りましたが…」
「何ぞ、ありましたか?」
「いや、別に何これがあったということじゃないのですが…。私にだけ見えたんですよ」
「何がです?」
「ああ、そうでした。私の座っている正面には例の水晶玉が、その夜も飾られていました」
「沼澤とか云う人が置いていったというやつですな?」
「はい、そうです。その玉が異様な光を放つのが私には見えたのです。本来、紫水晶の玉ですから、紫がかって見えるのです。それが…」
「ほお、それが!」
禿山(はげやま)さんの身を乗り出して聞く癖が出た。
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第六十回
「異変とは鼻持ちならない話ですなあ。そこいら辺りを詳しく…」
「はい…。まず最初は、これはまあ偶然といや偶然なのかも知れないのですが…。私の仕事上のことでした。お得意先の接待がある日、私は風邪ぎみで体調不良だったのですが、当然、今夜の接待は嫌だなあ、と思っておりました。すると、先方から今夜は都合が悪いので辞退したいという電話が入り、私としては、ホッとしたと云いますか…」
「まあ、よくある話といやあ、よくある話でしょうな。…それで?」
「ええ…。それで二番目の話に繋(つな)がる訳ですが、その夜、時間が空いたもんで、飲みに出たんですよ。風邪を飛ばす意味もありまして…」
「ほお…、みかんでしたかな?」
「はい、そうです。で、一人ですから、ボックスじゃなく、カウンターへ座りましたが…」
「何ぞ、ありましたか?」
「いや、別に何これがあったということじゃないのですが…。私にだけ見えたんですよ」
「何がです?」
「ああ、そうでした。私の座っている正面には例の水晶玉が、その夜も飾られていました」
「沼澤とか云う人が置いていったというやつですな?」
「はい、そうです。その玉が異様な光を放つのが私には見えたのです。本来、紫水晶の玉ですから、紫がかって見えるのです。それが…」
「ほお、それが!」
禿山(はげやま)さんの身を乗り出して聞く癖が出た。