水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

残月剣 -秘抄- 《残月剣①》第十九回

2010年08月05日 00時00分01秒 | #小説

         残月剣 -秘抄-   水本爽涼

          《残月剣①》第十九
 左馬介が去った後、二人は、ひっそりと小声で話した。
 庭先では今や遅しと、樋口が左馬介を待っていた。息も絶え絶えに、左馬介が「…お、お待たせしました…」と駆け込むと、樋口は少し焦れてはいたが、「おう、いいのだ、いいのだ」と、自重ぎみに言葉を返してきた。左馬介の方も樋口の素振りに尋常でないものを感じていたが、その気分は押し殺した。
「で、私に用向きとは、…いったいどうしたというんですか?」
「それよ…。このことは口外無用だぞ」
「はいっ!」
「実は、先生のことで少し云っておかねばならんのだ」
「先生が、どうかされたのですか?」
「他の客人の者達にも云っておらんのだが…、左馬介だけには、と思おてな」
「勿体ぶらないで云って下さいよ」
 気の長い左馬介だが、樋口の、まどろっこしさには流石に少しじれてきた。だが、すぐにそれと気づいて、じっと両眼を閉ざす左馬介であった。
「お加減が少し、お悪いようなのだ…」
「えっ? それは、どういうことですか?」


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スピン・オフ小説 あんたはすごい! (第四十二回)

2010年08月05日 00時00分00秒 | #小説
   あんたはすごい!    水本爽涼
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                       
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                              
    
第四十二回
「まあ、信じるとしましょう。お告げの通りになればいいんですがねえ」
「いえ、必ず、なります。なるんです」
 執拗(しつよう)なまでに沼澤氏は念を押す。そう云われれば私にも少しずつ、お告げのようになるかも知れん…という気持が頭を擡(もた)げてくる。
「あのう…それは、明日からでも起こるんでしょうか?」
「ああ、事象の生じるタイミングですか? それは一概に云えませんね。明日の場合もあれば、一週間後のことだってあるのです」
「たとえば、こういう場合に起こるとか、そんなのもないんでしょうね? …ないか。ちょっと、都合よ過ぎますよね?」
 私は訊ねた内容を自ら全否定した。
「ええ、そういった法則性は、私の知る限り、未だ、ございません」
「過去に私のような方がおられたようなことは?」
「あなたほど強運の持ち主ではございませんが、かなり強運をお持ちのお方は確かに、いらっしゃいました」
 その時、ママが私のほぼ空になったグラスを手にした。
「ダブル、もう一杯、作るわね」
「んっ? ああ、頼みます…。で、その方は今?」
 私は、なおも沼澤氏に踏み込んだ質問をしていた。

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