あんたはすごい! 水本爽涼
第六十四回
課へ向かう通路で腕を見ると、この前より二十分ばかり早かった。昨日(きのう)から繁忙になった我が第二課のことが脳裡を過(よぎ)り、知らず知らずに腰を軽くしたと考えられる。監視室で禿山(はげやま)さんと話をしているところを他の社員に見られるのを無意識で避けた感は否(いな)めない。監視室に入って話すこと自体は警備員の了解があれば何ら問題はなかった。ただ、社員が出社してきた時に、社でそれなりの地位を頂戴している私が室内に座って警備員と語らっている光景…というのも如何なものか、と思えたのである。
課の中はガラーンとした薄暗さで、室内灯をオンにすれば一斉(いっせい)にLEDの銀灯が光を放出するのだが、早朝のせいなのか、もう少しこのままでいたかった。私は自分の机(デスク)に近づき、椅子に腰を下ろした。そして、両眼を静かに閉じた。すると、不思議なことに、スゥーっと意識が急激に遠退き、私は眠ってしまっていた。
「課長! …課長!」
「… …」
肩を揺り動かして小声で私を起こしたのは、係長の児島君だった。私は徐(おもむろ)に右斜め前方の壁に掛けられた課の時計を眺めていた。すでに八時半ばを少し回っている。当然、課員は、ほとんど出勤していた。
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第六十四回
課へ向かう通路で腕を見ると、この前より二十分ばかり早かった。昨日(きのう)から繁忙になった我が第二課のことが脳裡を過(よぎ)り、知らず知らずに腰を軽くしたと考えられる。監視室で禿山(はげやま)さんと話をしているところを他の社員に見られるのを無意識で避けた感は否(いな)めない。監視室に入って話すこと自体は警備員の了解があれば何ら問題はなかった。ただ、社員が出社してきた時に、社でそれなりの地位を頂戴している私が室内に座って警備員と語らっている光景…というのも如何なものか、と思えたのである。
課の中はガラーンとした薄暗さで、室内灯をオンにすれば一斉(いっせい)にLEDの銀灯が光を放出するのだが、早朝のせいなのか、もう少しこのままでいたかった。私は自分の机(デスク)に近づき、椅子に腰を下ろした。そして、両眼を静かに閉じた。すると、不思議なことに、スゥーっと意識が急激に遠退き、私は眠ってしまっていた。
「課長! …課長!」
「… …」
肩を揺り動かして小声で私を起こしたのは、係長の児島君だった。私は徐(おもむろ)に右斜め前方の壁に掛けられた課の時計を眺めていた。すでに八時半ばを少し回っている。当然、課員は、ほとんど出勤していた。