水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

スビン・オフ小説 あんたはすごい! (第ニ百三十六回)

2011年02月17日 00時00分00秒 | #小説
 あんたはすごい!    水本爽涼
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                           
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                              
    
第ニ百三十六
まあ、それも余裕のある時にしようかと思いなおしながら、私は専務室のドアをノックしていた。
「はい、どうぞ…」
 ドア内より専務らしからぬ低姿勢の声が聞こえてきた。これも後(あと)から落ちついて考えれば、短期間ながら一応は大臣の要職を務めた私だからか…と思えなくもなかった。部長がただ再雇用で復職しただけでは、こうもいくまい、ということである。
「やあ、塩山さん、ご苦労様でした。またひとつ、会社のためによろしくお願いします」
 鍋下(なべした)専務の言葉遣(づか)いは、その後も偉(えら)く丁寧だった。
「はあ、それはもちろんのことです。で、私のポストは元の営業部でしたね?」
「いや、それがですな。お約束はそうだったんですが、なにぶん今は湯桶(ゆおけ)君が代理で頑張っておりまして、近々、正式に営業部長に昇格させようと役員会で決まったところでして…」
「ええっ!」
 あの万年リストラ候補の湯桶次長、いや部長代理が昇格などとは思ってもいない私だった。鍋下専務の次の言葉も私を驚かせるものだった。
「はい、塩山さんには常務取締役として、私ともども会社経営に携(たずさ)わって戴きたいと存じます」
「そ、そんな…」
 有難い話ながら、これでは益々、平凡な日々から離れていくように私には思えた。だがこれも、玉の霊力か…と考えれば、致し方なし…とも思えた。

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