あんたはすごい! 水本爽涼
第ニ百四十八回
それからまた数日が巡ったが、玉のお告げもなく、煮付(につけ)先輩からの電話すらなかった。それもそのはずで、新聞の一面を見れば、━ 政局混迷 ━ の大見出しに、━ 小菅(こすが)氏で決着か ━ と、小見出しが付いた記事が威張(いば)って載(の)っていたから、先輩が話していた私の出番にはなっていない状況だったのである。こりゃ、当分、大丈夫だ…と思っていると、二日後、電撃的な内閣不信任案が上程され、一端は否決されたが、内閣は総辞職した。さらに三日後、無投票で民自社公共(みんじしゃ・こうきょう)党の指名を受け、第二次小菅内閣が発足する運びとなった。その色濃くなったある日の夕方、先輩から携帯に一報が入った。
「もう、云わずとも分かっていると思うが…」
「はい…」
「まあ、そういうことだ。呼び込みが早まるかも知れんから、さっそく上京しろ。期限は二日だ。すでにマンションは確保してある。前と同じだ。俺も忙しくなってきた」
「そうですか、分かりました。会社には、もう云ってありますので、いつでもOKだったんです」
「そうか…、よろしく頼む。じゃあな…」
先輩からの電話はそれで途切れた。私はさっそく専務と社長に順次、その旨を伝えた。二人は私の事情を知っていたから、スンナリと了承してくれた。会社としても大臣を輩出することは、企業イメージとして大いにプラスになる、と踏んでいたこともある。事実、前回も、我が社の株価は急騰したのだった。