あんたはすごい! 水本爽涼
第ニ百五十回
・次の日は朝から忙殺された。午前十時、衆参の本会議で首班指名された民自社公共(みんじしゃ・こうきょう)党の小菅(こすが)氏が昼前に組閣本部を設置、首相官邸への呼び込みを開始したのだった。私は煮付(につけ)先輩に云われたとおり、ここは落ちつかねば…と、昨夜、コンビニで買っておいたサンドウィッチを齧(かじ)りながらテレビ画面を時折り見ていた。すると、まるで計算し尽くされたかのように電話の呼び出し音がした。受話器を取ると、秘書官らしき人物の声がした。やはり総理官邸からの就任要請だった。
「はいっ! はい…はいっ!」
気も漫(そぞ)ろに、私は空(から)返事をしていた。心ここにあらず、だった。ただ、二度目ということもあり要領は心得ていたから、前回ほどの動揺はなかった。こうして私は、民間出身者として文部科学大臣に就任したのだった。
第二次小菅内閣は、世界経済において変動固定相場制をIMF(国際通貨基金)に働きかけ、私が就任した文科省では、地球語開発プロジェクトの立ち上げを国連に働きかけるという壮大な政権公約を掲げ、内閣の目玉として動き始めた。すべてが玉の霊力によるものだと知る者は、世間広しと云えど私一人に違いなかった。小菅総理に玉の霊力が及んでいることは明白で、その指揮下で私を動かそうとしているのか? と思えたりもした。しかし、変動固定相場制の思惑は私の文科省の管轄ではないが…との謎(なぞ)が湧いた。ただ、その謎はやがて解けた。