あんたはすごい! 水本爽涼
第ニ百七十二回
「手っ取りばやく云えば、去年以前の予算の立て方というのをゼロベースに考え、最初から組み直そうというものです」
『それでも、難(むずか)しいですが…』
「ですから、…何と云えばいいんでしょうか。…つまり、我が国には八百兆を超える累積債務がある訳ですよ。それはお分かりですよね?」
『ええ、分かります。ですから、税収などの歳入財源から、その債務を差し引いたところより予算を新たに起こそうって訳ですよね?』
「当然、予算は極小化します。ここでどうするかです。新たに補う債務のための債務を少なくするしかありません。ゼロベースの見直しですから、必要なものだけを各省庁に予算配分するのです。そのためには、政府機関で予算計上する特別組織は入り用ですが…。それにしても、よく分かっておられるじゃないですか」
『むろんです。分からないことは何もないのです。ただ、そうされたとして、どうなるのか…という先読みが難しいのです』
お告げと心話を交わしている間に、外はすっかり漆黒の闇に支配されようとしていた。
「それは、やってみなければ私にも分かりません。担当は財務の長壁(おさかべ)さんがおやりになると思いますが、債務が増え続ける一定の歯止めにはなると思えます…」
『それは、そうでしょう…。それにしても、日本は少し殺伐としてきましたね。私が云うのもなんですが…』
「ええ、たしかに…。大学を卒業しても、就職できない時代ですからねえ」
『できても、いつ失業するか分からない』
「はい、そのとおりです。残酷な事件も増えてますしねえ…」