水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

連載小説 幽霊パッション (第二十三回)

2011年06月01日 00時00分00秒 | #小説

    幽霊パッション    水本爽涼
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                              
    
第二十三回
「出水(でみず)君、なにかあったら頼んだ…」
「はい! 分かりました」
 出水は課長席を振り向き、そう返した。
 バタつきながら上山が社長室へ入ったのは、その五分後だった。ドアを開けて驚いたのは、幽霊平林が田丸の座る社長席の真っ後ろにいたことである。一瞬、こいつ、また現れたか…と、怒れたが、ここは冷静にならねば・・と上山は気持を引き締めてドアを閉じた。
「ああ…早かったじゃないか、上山君」
 田丸は至極、機嫌がよく、笑顔で上山を迎えた。上山が社長席へ近づくと、田丸は立ち上がって応接セットの方へと歩いた。
「まあ、かけたまえ」
「はあ…」
 席を勧められ、幽霊平林を意識しないように上山は長椅子へ座った。
「呼んだのは他でもない。どうも、この前の君の話が気になってねえ。悪い冗談で私をからかったんなら、それでよかったんだが…。どうも、そうじゃないようだったからね…」
「いやあ…、そのことでしたか」
 困ったことになったぞ…と、上山は刹那、思った。ここは、この前の話は作り話で、おっしゃるとおり社長をからかったんですと笑って否定すべきなのか、あるいは真実を、有り態(ありてい)に話すべきなのか、をである。口籠(ごも)った上山を見て、田丸は穏やかに云った。
「なにも困らすつもりで君をここへ呼んだんじゃないんだ。別に話さなくたっていいよ…」
 田丸は一端、退いた。とはいえ、社長の威圧感は、やはり上山を攻めたてる。なにも私を怒らせたところで、それはそれでいいんだぞ。ただ、君の出世は…と、云われているような威圧感なのである。


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