水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

連載小説 幽霊パッション (第二十九回)

2011年06月07日 00時00分00秒 | #小説

    幽霊パッション    水本爽涼
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                              
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                              
    第二十九回

「まあ、いい…。今日のところは、これで引き取ってくれんか」
『えっ? ああ、それはいいですよ。実は、今日現れたのは、単に課長と岬君の話が面白かった、というだけじゃないんです』
「じゃあ、なんなんだ?」
『いい情報が入手出来ましてね。それをお伝えしようと現れた、というのが正直なところなんです』
「勿体ぶらないで手っ取り早く云いなさいよ。岬君を待たせてるんだから…」
『ああ、そうでした。実は、課長もご存知の滑川(なめかわ)教授なんですが、教授が今、研究されている生体科学の実験に興味がありましてね。というのも、その成果によれば、私と課長の妙な関係が解明出来るかも知れない…ということなんです』
「なんだって! あの滑川さんがかい? 大学の研究室に籠(こも)りきって、世間からは廃人扱いされている方だよ?」
『はい! そうなんです』
「それを早く云いなさいよ、平(ひら)さん」
『どうもすいません…』
 二人の新たな展開が始まろうとしていた。
「今はさ、岬君がいるから、家の方へ八時頃、現れてくれないかな」
『分かりました。じゃあ、この話は、その時に改めて…』
 そう云い終わるや、幽霊平林はスウ~っと消えた。慌(あわ)てながらトイレを出ると、上山は岬が座るボックス席へ戻った。
「偉く遅かったですね。今、大丈夫かな~って、行こうとしてたとこなんですよ」
「やあ、すまんすまん。もう大丈夫だ、ありがとう。え~と、今日は、ちょっと疲れてるから、この話は明日の帰りにでもしよう。まあ、出水君のことは悪いようにはしないさ。奴も、そう悪気はないんだろうがなあ…」


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