水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

連載小説 幽霊パッション (第四十八回)

2011年06月26日 00時00分00秒 | #小説

    幽霊パッション    水本爽涼
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                               
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                              
    第四十八回

『ああ…、そういや、ありましたね。なんか、懐かしいなあ…』
「懐かしがってる場合でもないんだけどね」
『はあ…、すみません』
「別に謝らなくったっていいけどな」
『首を一回転、回せば出てくるっていうの、どうです? シンプルですが…』
「ああ、いいね、それ。よし、決まりだな。…それはいいとしてだ、君は、いつでもOKな訳?」
『ええ…、僕達には課長のように睡眠も食事も必要ないですから…』
「ああ、そりゃまあそうだろうな。幽霊が、これから寝ますから・・っていうのも、なんか今一な…」
『ええ…、そういうことです。だから、いつでも24時間体制で頑張れます』
「別に頑張ってもらわなくても、いいけどな。しかし、燃料も電気もいらないから便利だ。…じゃあ、そういうことで」
 上山は、ぐるりと首を一回転させた。
『えっ? この場合は?』
「消えるってことで…」
『ああ、はいっ…』
 幽霊平林は上山の前からスゥ~っと消滅した。これだなっ! と上山は思わず首を一回転して背伸びをした。その瞬間、消えた幽霊平林がスゥ~っと現れた。
『課長! 何かありました?』
「おおっ! びっくりしたぞ。どうした、君?」
『どうしたって、課長が首を回されたので、現れたまでです』
「ああ、そうか…。これは、すまなかった。別になんでもないんだ」
『そうですか…。首の動きだけは注意して下さいね、すぐ現れますから…』
「ああ、すまんかった」
 幽霊平林は、その言葉を聞くと、ふたたび消え去った。上山は、全ての行動を見られているようで、少し嫌な気分がした。


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