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水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

連載小説 幽霊パッション (第四十五回)

2011年06月23日 00時00分00秒 | #小説

    幽霊パッション    水本爽涼
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                              
    第四十五回

 この日の教授は機嫌がよかったから、それが上山には幸いした。コトは思惑通りに運び、上山は研究所を退去した。
 家に戻ると、上山はかなり気疲れしている自分に気づいた。上がり框(かまち)へヨッコラショ! と腰を下ろして、フゥ~っと溜息をついたとき、幽霊平林が現われた。最近、決めごとにしている現れ方で、上山の背後からである。
『課長!』
 上山は一瞬、ギクッ! とはしたが、現れたか…という馴れ気分で後ろを振り向いた。
「なんだ、さっきは。何も云わず消えたじゃないか」
『すみません。どうも、あの教授、苦手なんですよ』
「そうか? 口は荒いが、いい教授なんだがなあ」
『それは、生前から僕もよく知ってますよ。度々(たびたび)、通ってたんですから…』
「だろ? だったら…」
『ええ、そうなんですよ。いい教授なんですけど、なんか苦手で近寄りがたいところがあるんです』
「君の被害妄想だろう。私なんか、なんともないぞ。まあ、少し気は遣うがな」
『もういいじゃないですか、その話は。それより、どうなりました? 例の話』
「ああ、アレなあ…。上手くいきそうだ。佃(つくだ)教授に会えることになった」
『えっ! そりゃ、よかったじゃないですか。すると、機械が我が社で生産されるってことに?』
「いや、それは、まだどうなるか分からんがな。なにせ、開発した佃教授の腹積もり一つだからなあ」
『はあ…、そりゃまあそうですね』
 幽霊平林は、少しもの静かになった。上山は靴を脱ぐとリビングへ移動した。掛け時計は昼を少し回っていた。


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