幽霊パッション 水本爽涼
第四十一回
「んっ? これは! もしかして…」
そう呟(つぶや)くと、教授は俄(にわ)かに室内のあちらこちらをキョロキョロと見回しながら、何かを探しているような目つきになった。もちろん、教授に幽霊平林の姿は見えるはずもない。だが、教授の凝視する眼差(まなざ)しは、その見えない何ものかを探しだすかのように、一点を見据える。そして首だけが、まるでカラクリ人形のように周囲に回るのだから、これはもう不気味以外の何物でもなかった。幽霊平林ですら教授の動作に威圧され、黙って上山の後方へ退避した。
「教授、その機械は?」
思いきって上山は口を開いた。
「んっ? これかっ? これは私が開発した霊動探知機だ。と、云っても、機械が専門でない心霊学の私が作れるべくもない。実は、これは、私の友で機械工学の権威者である佃(つくだ)教授に開発してもらった機械でな」
「なるほど、…そうだったんですか。それで今の反応は?」
「よくは分からんが、どうも何かの霊がこの研究所に入ってきたようなのだ」
幽霊平林は、僕はここにいますよ…と云わんばかりに、自分を指さしてアピールした。
「ははは…、そんな馬鹿な。教授の思い過ごしでしょう」
「なにぃ! 私を怒らせる気かっ!」
「いいえ、滅相もない。決して、そのような…」
滑川(なめかわ)教授が俄(にわ)かに血相を変えて怒りだしたのを見て、上山は慌(あわ)てて取り繕(つくろ)った。
「…ならば、いい。いや、この機械は今まで一度も反応したことがなかったんだ。それでこの私も、もう一度、佃(つくだ)君に作り直してもらおうか…と、思っておったんだよ。それが今、この状態だ」