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水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

連載小説 幽霊パッション (第三十九回)

2011年06月17日 00時00分00秒 | #小説

    幽霊パッション    水本爽涼
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                               
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                              
    第三十九回

 仕事帰りの上山が、行きつけのバーで飲んで帰途についたのは、もう日が変わった頃だった。上山の家がある住宅街は結構、高級な邸宅が多く、芸能人の家も多かった。上山は、明日の教授宅の訪問を考え、目覚ましをセットすると早めに寝た。
 次の日は快晴で、上山は久しぶりにぐっすり眠った…と、心地よく目覚めた。目覚ましは八時にセットしたのだが、目覚めたのは、その二十分ばかり前である。やはり熟睡してるとはいえ、心の奥底には教授宅のことが克明に刻まれていたのだ。
 教授との約束は十時だから、二時間はある。これはもう、ゆったりと起きて、洗顔、歯磨き、朝食、着替えなどの行程を終えるには充分な時間であった。上山はそれらの行程を終えると、九時を少し過ぎた頃、家を出た。教授の研究所への道中は、以前、安眠枕の折りに生前の平林と足繁く通ったことがあったから、しっかりと上山の記憶に残っていた。カーナビに頼ることなく、上山は無事、研究所近くの空き地へ車を停車させた。新しいビルや駐車場、それにコンビニとかが出来た関係で景観は上山の記憶より多少変わっていたが、当の研究所は以前とちっとも変わらず、そのままであった。周囲の真新しさと反比例するというか、コントラストをきわ立たせて研究所は存在した。そして、教授が電話で云ったとおり通用口の施錠はされず開いていた。上山は、カツ! カツ! と鋲の打った皮靴を響かせて、教授がいると思われる地下二階の研究所へと足を進めた。
 階段を下りると、太陽光から遠ざかるためか、光線が遮(さえぎ)られて、薄暗くなった。まるでモグラだなあ…と思っていた頃の過去の記憶が、ふと上山の脳裡を過(よぎ)った。研究室の入口は以前のままで、少しも変わっていなかった。周囲に置かれた雑物が多少の年月の経過を思わせたが、それ以外はまったく、あの時と同じだ…と上山を思わせた。


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