水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

連載小説 幽霊パッション (第三十七回)

2011年06月15日 00時00分00秒 | #小説

    幽霊パッション    水本爽涼
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                             
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                              
    第三十七回

「いったい、誰からそんな情報を入手したというのかのう?」
「はあ…、まあ風の噂(うわさ)を耳にした、とでも申しますか…」
「風の噂なあ…。どうも腑に落ちんわい。まあ、百歩譲ってこの研究を、どうしたいというんだ!」
「どうするも、こうするも…、一度、先生の研究所を見学させて戴き、研究のご様子などをお見せ下されば、それで結構でございます、はい!」
「なにっ! 見るだげよいというのか。君の会社は、いったい何を考えとるんだ! …まあ、君に怒っても仕方ないことだが…。それに、見学するだけならなあ…、別に構わんが。…ただし、君だけにしてくれんか。他の者は、というより、二名以上は駄目だぞ!」
「はい、分かりました。ありがとうございます。改めて、日時につきましては、お電話を差し上げますので…」
 教授の後ろで一生懸命、霊気を送る幽霊平林は、やったとばかりにイエ~イ! と云ってVサインをした。むろん、教授は、その声も仕草も見聞きしてはいない。
 上山が電話を切るやいなや、幽霊平林は研究室から上山の自宅へとVサイン姿のまま瞬間移動した。
『課長! 上手くいったじゃないですか。あとは課長の腕次第ですね』
 蒼白く笑う幽霊平林の頭部にガス燃焼の炎のような青火がポワ~ンと丸く浮かんだ。
「なんだか頭に浮いとるぞ、君」
『はい、どうも一定限度の興奮を超えると出るようです』
「出るって君、それは他人にも見えるんだろ? 君にすりゃ、気づかれるから危険じゃないか?」
『ははは…、心配しないで下さい。青火だけで、僕の姿は全然、見えませんから…』
「そういう問題じゃないだろ? 私の近くで青火が突然、浮かべば、他の者が私を避けるようになるだろうが」
『はあ…それは、まあそうですが、課長の前では、興奮しないようにしますから、ご安心を』
 幽霊平林は、ふたたび陰気に笑った。


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