水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

連載小説 幽霊パッション (第四十四回)

2011年06月22日 00時00分00秒 | #小説

    幽霊パッション    水本爽涼
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                               
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                              
    第四十四回

機械は俄(にわ)かに沈黙し、研究室内は陰気な薄闇と化した。余計に気味悪くなったぞ…と、上山は思った。横にいた幽霊平林は、いつの間にか消え去っていた。勝手な奴だ…と、上山は少し怒りを覚えた。それでも、そうした気持を教授に悟られては拙(まず)い…と、瞬時に思え、上辺だっては怒りをおし隠す上山だった。
「教授、それにても立派な機械なんですねえ。見てくれは、なんか云いにくいんですが…ポンコツにしか見えませんから…」
「おお、そりゃそうじゃろう…。なんといっても、私ですら一目(いちもく)置く佃(つくだ)教授だからのう…」
 滑川(なめかわ)教授は先程のギラついた目とはうって変わり、愛(いと)しむような眼差(まなざ)しで機械を見つめた。ただ黙っていた上山は、幽霊平林が云ったことを、ふと想い出した。
 ━ 田丸工業で目玉商品にすりゃ、どうなんでしょう ━
 その声が上山の脳裡に甦った。
「教授、佃教授にお会いしたいのですが、紹介状か名刺を戴けないでしょうか。誠に厚かましいお願いなんですが…」
「本当に厚かまし奴だ、ははは…。佃教授に会って、どうするというのかね。…まあ、書かなくもないが…。名刺なら、ほれ、これでいいだろう…」
 教授はボロ紙のように汚れ、四隅が丸まった名刺を白衣のポケットから取り出した。
「あっ!これで結構です。ちょいと、この機械の構造に興味がありまして…」
「ほう、そうか…。紹介状はどうする?」
「お電話で上山という者がそちらへ行くだろうから、よろしく頼む、とでも云って戴ければ、それで結構でございます」
「おお、それなら、そうしよう…」


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