幽霊パッション 水本爽涼
第二十五回
「そこに座っているのかね」
「はい…」
田丸はシゲシゲと眼鏡をいじりつつ上山の右隣を見た。田丸の両眼には、ただの空間が広がって映るだけである。
「う~む…」
田丸は返さず、無言で唸(うな)った。
「ここにいるのですが、社長にはお見えになりません。てすから、私の云う内容は絵空事で。しかし、今のボールペンの転がりは、単なる偶然ではないとだけは申しておきます。現に平林君がゆっくり抜いてテーブルに落とすのを私が横で目の当たりにしてるんですから…」
「なるほど…。君が云うのも一理ある」
田丸は両腕を組み、目を閉じると考え込んだ。
「そんなに悩まれることじゃありませんよ。私が云ったことは、なかったことにして戴ければ、それでよろしいではございませんか」
上山は、少し胡麻擂(ごます)り顔で笑いながらそう云った。
「そりゃそうだが一端、聞いたことを、だよ、君」
「そのうち忘れられますよ」
「そうかねえ」
『そうそう…』
その時、幽霊平林が気楽に相槌を入れた。
「君は、黙ってろ!」
「なにぃ! 黙ってろ、とは誰に云ってるんだ!!」
田丸が一瞬、怒った。