水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

連載小説 幽霊パッション (第二十五回)

2011年06月03日 00時00分00秒 | #小説

    幽霊パッション    水本爽涼
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                              
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                              
    
第二十五回
「そこに座っているのかね」
「はい…」
 田丸はシゲシゲと眼鏡をいじりつつ上山の右隣を見た。田丸の両眼には、ただの空間が広がって映るだけである。
「う~む…」
 田丸は返さず、無言で唸(うな)った。
「ここにいるのですが、社長にはお見えになりません。てすから、私の云う内容は絵空事で。しかし、今のボールペンの転がりは、単なる偶然ではないとだけは申しておきます。現に平林君がゆっくり抜いてテーブルに落とすのを私が横で目の当たりにしてるんですから…」
「なるほど…。君が云うのも一理ある」
 田丸は両腕を組み、目を閉じると考え込んだ。
「そんなに悩まれることじゃありませんよ。私が云ったことは、なかったことにして戴ければ、それでよろしいではございませんか」
 上山は、少し胡麻擂(ごます)り顔で笑いながらそう云った。
「そりゃそうだが一端、聞いたことを、だよ、君」
「そのうち忘れられますよ」
「そうかねえ」
『そうそう…』
 その時、幽霊平林が気楽に相槌を入れた。
「君は、黙ってろ!」
「なにぃ! 黙ってろ、とは誰に云ってるんだ!!」
 田丸が一瞬、怒った。


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