「それも、そうだ…。まあ、適当に言うさ、ははは…」
里山は笑って逃げを打った。なんか頼りないご主人だな…と小次郎に初めて思えた。
『そこまでして奥さんに隠す必要もないんですがね。僕は余り有名になりたくないんですよ、そんな先輩がいましたから…。奥さんを見ていると、どうも漏れそうな気がします』
「ああ、それは言える。沙希代なら手芸教室で漏らしかねん」
『でしょ?』
「ああ、小次郎は一躍(いちやく)、有名猫の仲間入りだ。マスコミ沙汰(ざた)にでもなりゃ、俺も困る。会社があるからな…」
『だから、上手(うま)く言って下さいよ』
「分かった。さて、ネズミ避(よ)け以外には…」
里山は両腕を組んで考え始めた。そのとき、キッチンから沙希代の声がした。
「あなたぁ~、お茶が入ったわよぉ~!」
里山は恐らく訊(き)かれるであろう配線の目的を未(いま)だ思いついていなかった。
「ああ! 今、行くぅ~」
里山は行きそうにない声を出した。里山が思いついた説明は案外、簡単なものだった。深く考えない方が存外、上手い手段が見つかる・・といった手合いである。
「さっきの、なんの配線?」
テーブルで食べ始めてすぐ、沙希代が速い直球を里山の胸元に投げ込んできた。里山としては予想していたより早い敵の攻撃である。
「んっ? ああ、ちょっとした思いつきさ。物騒だからブザーをね…」
里山の口から思いついた軽い言葉が飛び出した。