水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

コメディー連載小説 里山家横の公園にいた捨て猫 ①<47>

2015年01月01日 00時00分00秒 | #小説

「それも、そうだ…。まあ、適当に言うさ、ははは…」
 里山は笑って逃げを打った。なんか頼りないご主人だな…と小次郎に初めて思えた。
『そこまでして奥さんに隠す必要もないんですがね。僕は余り有名になりたくないんですよ、そんな先輩がいましたから…。奥さんを見ていると、どうも漏れそうな気がします』
「ああ、それは言える。沙希代なら手芸教室で漏らしかねん」
『でしょ?』
「ああ、小次郎は一躍(いちやく)、有名猫の仲間入りだ。マスコミ沙汰(ざた)にでもなりゃ、俺も困る。会社があるからな…」
『だから、上手(うま)く言って下さいよ』
「分かった。さて、ネズミ避(よ)け以外には…」
 里山は両腕を組んで考え始めた。そのとき、キッチンから沙希代の声がした。
「あなたぁ~、お茶が入ったわよぉ~!」
 里山は恐らく訊(き)かれるであろう配線の目的を未(いま)だ思いついていなかった。
「ああ! 今、行くぅ~」
 里山は行きそうにない声を出した。里山が思いついた説明は案外、簡単なものだった。深く考えない方が存外、上手い手段が見つかる・・といった手合いである。
「さっきの、なんの配線?」
 テーブルで食べ始めてすぐ、沙希代が速い直球を里山の胸元に投げ込んできた。里山としては予想していたより早い敵の攻撃である。
「んっ? ああ、ちょっとした思いつきさ。物騒だからブザーをね…」
 里山の口から思いついた軽い言葉が飛び出した。


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