水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

コメディー連載小説 里山家横の公園にいた捨て猫 ②<14>

2015年01月17日 00時00分00秒 | #小説

 里山が着がえを終え、得(え)も言えない美味(うま)そうなスキ焼きを口へと運んだ。だが、おやっ? と思えた。味はともかくとして、肉が硬く、得も言えたのである。
「おい! この肉、硬いなっ!」
「そお? 消費税で高くなったから…」
 社会の動静が俺の食卓まで及んだか…と、里山は、ガックリ! した。去年の肉は…と、さもしく思えた。そう思えた根本原因が生じるのは少し以前に遡(さかのぼ)る。里山は抜けた歯の治療に会社近くにある松代歯科医院へ通っていた。
「ははは…里山さん、こりゃ、しばらくかかりますね! あちこち、ボロボロです」
 歯科医の松代は、愉快そうな声を上げて笑った。だが、そう言う松代もブリッジの入れ歯だった。里山は診察台で大口を開けていた。なにがボロボロだっ! と里山は小腹が立った。それに笑うのも面白くない。あんたと一緒にしないでくれ! と内心で思ったが、診察台で診(み)られている間は俎板(まないた)の鯉である。里山は、我慢して思うに留めた。松代と里山は幼友達で古くからの飲み友達だった。それはさておき、その歯の治療が継続中で、まだ咀嚼(そしゃく)が思うに任せなかった・・という裏事情の根本原因が潜(ひそ)んでいたのである。
 スキ焼きの恩恵は小次郎にも及んだ。
「小次郎、ほれ食べろ、味が薄いとこだ」
 硬い肉といっても、それは食通の里山の感覚であり、普通には十分、美味な肉だった。


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