「どうなんでかねぇ~、真相は…」
「ははは…それは、こちらが訊(き)きたいくらいのもんですよ。たぶん、耳の錯覚かなんかじゃないですか? テレビで、そんな番組ありましたよ、確か…」
里山は恰(あたか)も将棋の歩がと金になるような思案の一手を口にした。
「あっ! テレ京の駒井です。それ、うちの局の企画ものでしたっ!」
別の報道陣の一人が後ろから手を上げて叫んだ。そんなこたぁ、どうだっていいんだよ! と、里山は少し怒れた。内心は、早く風呂に浸(つ)かって沙希代の突き出しを摘まみながら熱燗で一杯・・だったのだ。春の陽気からして寒くはないが、玄関の外の長話は、はっきり言って、いい迷惑だった。それに、なぜ自分の家のプライべートを報道されねばならないのかと思えていた。度胸を決め、深呼吸をして帰ってきたつい今し方が里山には嘘(うそ)のような心境の変化だった。
「そういうことでしたらお時間もなんなんで、我々は一端、引き上げます。後日、局の方からお電話があるかも知れませんが、その節(せつ)はよろしく!」
「記事はその後次第ということで…」
テレビ局の方は話が分かると頷(うなず)けたが、新聞社の方は、なにがその後次第だ! …と、里山は少し怒れた。
「それじゃ、皆さん!」
里山は挨拶代わりに叫ぶように言いながら玄関戸を開け、中へ入るとすぐ、戸を閉めた。見上げると、玄関には沙希代が上がり框(かまち)に立ち、その横には小次郎がいた。