「お前、どう思う?」
「ははは…猫が人の言葉を、ですか? 課長。…なんか、メルヘンだな」
課長補佐の道坂は大笑いした。定食屋、酢蛸の店内だったから、客が思わず振り向いて道坂を見た。
「いや、なに。うちの猫が話しゃ面白いなと、ふと思っただけさ…」
里山はバツ悪く、言葉を濁し、杯(さかずき)の酒を飲み干(ほ)した。
一日が過ぎ、里山は大ごとにするまでの決断は出来ないでいた。やはり、ニャ~ニャ~で撮るしかないか…と思った次の日の昼だった。ひょんなことで、里山の決断を後押しする事態が発生したのである。
里山は部長室へ呼ばれていた。
「実は、支社への出向をね。もちろん、早期退職でも構わんのだがね…」
部長の蘇我は、柔和(にゅうわ)な目つきで厳(きび)しい言葉を里山に浴びせた。
「はあ、考えてみます…」
昼休み、里山は定食屋、酢蛸で定食を食べていた。向かいの席には課長補佐の道坂と係長の田坂がいた。
「酷(ひどい)いですね、それは…」
「そうですよ、課長。課長が何をしたって言うんです? …まあ、実績は確かに落ちてますが」
道坂が怒り顔で言ったあと、田坂がつけ加えた。