水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

コメディー連載小説 里山家横の公園にいた捨て猫 ①<50>

2015年01月04日 00時00分00秒 | #小説

 猫の場合でも一応、足と手は区別するのである。四本すべてが足のように見えるが、前二本が手、後ろの二本が足なのだ。えっ? そんなことは分かってるから話を進めろ! って、ですか? 読者諸氏、誠に申し訳ございません。
 そして、小次郎は上げた右足をやんわりと下ろした。その瞬間、耳を劈(つんざ)くような鋭い警報音がビビィ~~!!! と、鳴り響いた。さあ、驚いたのはドラである。たちまち身をビクッ! と起こすと、疾風(はやて)のような素早さで走り去った。その速度は新幹線並であった。…これは少し大 袈裟(げさ)だが、いずれにせよその素早さは尋常のものではなかった。小次郎は音の大きさは知っているから、余り驚きはしなかった。ただ、逃げ去ったドラの速さには、また少し驚かされた。
 一分後、小次郎は効果を確認し、誰に言うともなく、ヨッシャ! と軽く尻尾(しっぽ)を振ってガッツポーズをした。人間だと手だが、猫の場合は尻尾のようである? 里山も沙希代も出かけていたから、家から飛び出してくる者は誰もいなかった。効果抜群だったことを夕方、ご主人に報告だ…と小次郎は心にメモをした。
 その後、ドラが里山家に現れることは二度となかった。まあ、いろいろとあったが、これで小次郎の安住の地は安全となったのである。

                                  第①部 <安住編> 完 


  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする