水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

コメディー連載小説 里山家横の公園にいた捨て猫 ③<20>

2015年03月14日 00時00分00秒 | #小説

「ははは…妙ですね。別にどうってことないんですが…。しかし、口からアルコール臭がします。何か飲まされましたか?」
 救急病院ならぬ動物病院の獣医、毛皮(けがわ)は首を捻(ひね)りながら笑顔で里山の様子を窺(うかが)った。
「はあ、まあ…。本人が自主的に」
 嘘(うそ)を言っても仕方がない…と里山は直感した。
「えっ? 自主的ってことはないでしょう、まさか…」
「ええ、私が飲まないか? とは勧(すす)めましたが…」
「ははは…、それで飲んだと。急性アルコール中毒ってことはないですが、人間で言いますと泥酔(でいすい)状態ですね」
「そういや、ぺロぺロと舐(な)めたような、そうでもなかったような…」
 勧めた当の本人の里山は、方便(ほうべん)を使った。ここは、小次郎が人間語を語るということから生じたコトの顛末(てんまつ)を話さない方がいいだろう…と判断したのだ。当然、それは毛皮が小次郎の一件を知らない・・と考えてのことだった。
「これが有名猫の小次郎君ですか…」
 毛皮は里山に訊(たず)ねるでなく一人ごちた。里山はギクリ! とした。
「なんだ先生、知ってらしたんですか」
「そりゃ、知ってますよ。小さい頃から何度かお目にかかってますからね」
 毛皮が言うのも一理あった。なんといっても、この動物病院は里山の行きつけだったからだ。過去に何度も小次郎を連れて毛皮の動物病院へ診察に訪れたことがあった。


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