冬にしてはポカポカ陽気の日の朝、昨日降った雪解け水の音を聞きながら、小次郎はウトウトと縁側で眠っていた。今日は仕事が向うの都合とかでキャンセルになり、俄かの休みとなったのだ。積もった疲れがドッ! と出て、小次郎は朝から睡魔に襲われていた。里山夫婦も今日は二人で出かけ、小次郎は態(てい)のよい留守番猫だった。
「美味いものを買ってきてやるからな…」
ご機嫌とりでもないのだろうが、出がけに里山が小次郎に言った言葉を楽しみに小次郎は眠っていた。かなり稼(かせ)いでいるはずなのだから、鰹節(かつおぶし)1本では割に合わないぞ…と思いながら微睡(まどろ)んでいたとき、急に黄色い声がし、小次郎は耳を立て瞼(まぶた)を少し開いた。庭の向こうに見える物置の軒下(のきした)に、なんと十数匹の娘猫が縁側の小次郎を窺(うかが)っていた。悪い気はしない小次郎だったが、プライバシーの侵害は避(さ)けて欲しかった。かといって、自分のファンを無碍(むげ)にして見て見ぬふりを決め込む・・というのも気が引けた。そんなことで、小次郎は徐(おもむろ)に立つと、前脚(まえあし)を伸ばし、続いて後ろ脚を伸ばした。そして、ガラス越しに娘猫達へ視線を向け、軽くニャ~とひと声発した。その途端、ニャニャ~~!! と、歓声(かんせい)が湧(わ)いた。小次郎は里山夫婦が出ていてよかったな…と思った。そして、ここでの日向(ひなた)ぼっこもし辛(づら)くなったか…と、有名猫の喜びと悲哀を少し感じた。