視聴率賞の祝賀パーティが行われてから数ヶ月が経ち、本格的な冬が巡ろうとしていた。小雪が舞う朝、里山と小次郎は、この日もまた仕事だった。キャリーボックスを小型毛布ですっぽりと包(くる)んで保温し、里山は家をあとにした。里山は完全に小次郎のマネージャーになりつつあった。幸か不幸か、小次郎人気は翳(かげ)らず、活躍する日々が続いていた。
『今朝は冷えますね…』
「そうだな…」
里山はテレ京の駐車場へ車を止め、局内へ歩いていた。今月から<小次郎ショー>のバラエティ番組収録が始まっていた。視聴率は相変わらず好調で、テレ京の制作部長、中宮はホクホク顔だった。
「おはようございます、ご苦労さまです」
スタジオ内では客扱いの丁重な、おもてなし状態だった。
「好調ですよ、里山さん!」
小次郎人気でチーフプロデューサーに昇格した駒井が駆け寄ってきた。里山を見て、駒井の機嫌が悪い訳がない。なんといっても駒井にとって、里山は出世の神様だった。
「今日は楽にやっていただいて結構です。ゲストは若手歌手ですから…」
「なんという方です?」
「あれっ? 言ってなかったでしたっけ? MTリポリューションの梨川(なしかわ)君ですよ」
里山はロック歌手、梨川の名を一応、知ってはいた。曲も聴いたことはあったが、ジェネレーションギャップからか、入れ込んで聴く・・というほどではなかった。