二人の会話を余所(よそ)に、小次郎は診察台の上で爆睡(ばくすい)していた、いや、泥酔(でいすい)していたと言った方がいいのかも知れなかった。人間のように鼾(いびき)こそ掻いていなかったが、口を半開きにし、呼吸で身体をド派手に上下しながら横たわる姿は、酒癖が悪い酔っぱらいと変わらなく見えた。
「あの…連れて帰ってもいいんでしょうか?」
「はあ、それはもう。どこも悪くないんですから…。明日の朝にはケロリとしてると思いますよ。それにしても、残念だなぁ~。小次郎君と話したかったですね」
「そうですか。それは、どうも…。また連れてきますよ。失礼します!」
里山は動物病院を出た。そのとき、里山はキャリーボックスをホテルへ忘れてきたことに気づいた。里山は駐車場に止めた車に乗ると日次郎を助手席へ静かに置いた。そしてすぐ、携帯を握った。発信先はテレ京の駒井だった。
「あの…里山です」
[ああ! 忘れ物でしょ? ホテルの受付に預けてあります。それより、小次郎君は?]
「はあ、有難うございます。ご心配をおかけしました。小次郎は大丈夫です、ただの酔いつぶれですよ、ははは…」
ここは笑って流すしかないか…と里山は考えた。
「そうですか。そりゃ、よかった。うちの番組にも影響しますから…」
なんだ、そっちかい! と里山は少し怒れた。所詮(しょせん)は我が身可愛さから出た憐れみだったか・・と思えたのだ。