沙希代は唖然(あぜん)として、電話を切る訳にもいかず途方に暮れた。その様子を遠目で見ていた里山が近づいた。
「どうした?」
里山の問いかけに沙希代は受話器を指さし、困り顔で里山に突き出した。
「はい! 代わりました。里山ですが、なにか…」
里山が話したあとに聞こえてきたのは、やはり英語の話し声だった。里山は、こりゃ駄目だ…と即断し、英語で返した。
「 I,m sorry,please say once again [すみません、もう一度、おっしゃって下さい]」
瞬間、話し声が途絶え、電話向こうで話す二人の遣(や)り取りが聞こえた。
[すみません! 突然…。イギリスからの国際電話です。こちらはBBCの海外特派員、平田と申します。ああ! そちらは夜でしたね。こちらは朝です]
そんなこたぁ、どうでもいいんだ・・と、里山は細かく話し始めた平田と名乗る男の声に焦(じ)れた。
「はあ、その平田さんが、どういったご用件でしょう?!」
里山はそこを言いなさいよ! と言わんばかりに少し声を大きくした。いくらか、夜分の寛(くつろ)ぎ時間を邪魔されたイラつきもあった。
「実は、こちらでも小次郎君の話題で、もちきりでして…」
「えっ? イギリスで、ですか?」
「はい。是非とも、こちらの放送にもご出演願えないかと…。実はですね、それだけじゃないんですよ。当方とは関係がない学術関係からの取材も頼まれてるんです」
「…それにしても、よく私の家の連絡先が分かりましたね?」
里山は不思議に思えた。