水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

コメディー連載小説 里山家横の公園にいた捨て猫 ⑤<46>

2015年07月18日 00時00分00秒 | #小説

「…えっ? ああ…はいっ? 私も…。今、訊(き)いてみます」
 猪芋(いのいも)も駒井の指示を受けないと分からないから暈(ぼか)した。そのとき、副調整室の駒井の声が猪芋のインカム[通話連絡用装置]から聞こえた。里山と猪芋の話は副調整室へも聞こえていたからだ。インカムとは、ちょうどヘッドホンのような形をし、頭に装着することで聴くだけでなく音声マイクで通話ができる機器である。
「ああ! そのまま…」
「分かりました! …そのまま話してもらっていいそうです」
 猪芋は里山に鸚鵡(おうむ)返しで伝えた。ちょうど、外野フライをミットに納めた外野手がセンターへ中継して返球し、その球をセンターの選手がホームべースへ返球したようなものである。これは飽(あ)くまでも例(たとえ)だが、要は副調整室の駒井の言葉が里山に伝わった・・ということだ。
 そうこうするうちに10分が経った。猪芋は、駒井がキュー[開始のサイン]を出す前にインカムで伝えた指示をスタジオの全員に伝えた。キュ-が出されると、猪芋は馴(な)れた所作で片腕を動かせ、進行役の女性アナウンサーを指さした。
「…小次郎さん、お話を続けて下さい」
『はい!』
 さん付けで呼ばれれば悪い気はしない。小次郎は、ふたたび猫語でニャゴり始めた。これも通訳すれば、次のとおりとなる。
『先ほどは突然、失礼しました。でも、僕は言ったことを変更しません。この放送を見聞きされた猫の方々に繰り返し伝えます!』
 小次郎はニャゴニャ~と猫語で最初に話した内容の要点だけを繰り返した。というのも、この番組を観るのは大部分が人間だからだ。


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