その一方、キャリーボックスから出されて待つ小次郎は、里山とは違い、一向、腹が立っていなかった。というのも、どのタイミングで浮かんだ思いを語ろうか…と考えていたためだ。
「お待たせしました…」
かなり権威のある世界的に著名な学者がスタジオに姿を見せたのは20分ほど経った頃だった。悪びれることなく少し偉(えら)そうな上から目線の声で言い放って指定椅子へ座ったその学者に一同の目線が一斉に注がれたが、学者は少しも怯(ひる)まず、逆に全員を見回した。その見えない威圧的なオーラに押されてか、小さな咳払(せきばら)いが出ただけで収録が開始された。収録は順調に推移し、予想された質問の攻撃に晒(さら)された小次郎が、爆弾発言的な思いの丈(たけ)を、ついに言い放つ瞬間がきた。そして、ニャゴニャゴと始めた。急に小次郎が猫語でニャゴり始めたものだから、スタジオは騒然とし出した。人間語に翻訳すれば次のとおりとなる。
「猫の皆さん、聞いて下さい! 僕は今日、猫国の独立を宣言します! 我と思わん猫達は、国会議事堂前へ集まって下さい! ただし、革命でもなんでもありません! 整然と移動して、来て欲しのです。もちろん、自腹です!」
生い立ちや様々な生理的な質問を続けていた評論家や学者達は、ニャ~ニャ~と続く猫語に呆気(あっけ)にとられ、視線を小次郎へ集中させた。瞬間、こりゃ拙(まず)いぞ! と思ったのは収録の様子を副調整室のモニター画面で見守るこの番組のディレクターを兼ねるプロデューサーの駒井だった。駒井は慌(あわ)ててフロアへ指示した。
「ダメダメェ~~!」
少し最近のギャグっぽく言ったのが受け、ミキサーやタイムキーパー、スイッチャーといった機器操作員達から笑い声が湧(わ)き出た。