「…」
言われるまま、里山は小次郎を揉(も)みほぐした。飼われる身の小次郎だから、常識的には本末転倒なのだが、稼(かせ)ぎ頭(がしら)の今は、里山に指図(さしず)が出来たのである。
長崎では名物のちゃんぽんを食べたぐらいで、里山と小次郎は早々と帰途についた。空港を出たところで、待ってましたっ! とばかりのお抱え運転手+雑用係を務(つと)める狛犬(こまいぬ)の姿があった。
「お疲れでした…。どうされます? テレ京の収録時間にはまだ、2時間ばかりございますが、このままテレ京へ向かわれますか?」
「そうだな…。腹が減った。なにせ、ちゃんぽん一杯で取って返したからな。軽く、いつものところで食べていくか。小次郎のは?」
「はい! それはもう…。いつもの猫缶は準備いたしております」
「よかろう! じゃあ、車を回してくれ」
「かしこまりました…」
狛犬は手馴(てな)れた所作で車を始動した。いつもの猫缶とは、市販品ではなく、特別仕様で製造された小次郎専用の超高級品である。小次郎の稼(かせ)ぎからして、まあ、これくらいはしてやらないと…と里山が思ったからだ。沙希代と自分だけが日々、美味(うま)いものを食べるというのも・・という申し訳なさが、心のどこかにあったからに違いない。
猫カフェ[毛玉]は、小次郎が有名になった頃から、里山の行きつけの店になっていた。