「立国される・・とお聞きしましたが?」
突然、狛犬(こまいぬ)がカップをフゥ~フゥ~と冷(さ)まし、啜(すす)りながら話しだした。狛犬は猫舌だった。里山は狛犬のフゥ~フゥ~が嫌いで、過去、頭を叩(たた)きたい気分に何度もなったが、その都度、我慢していた。そして今は、その解決策が完成していた。狛犬がフゥ~フゥ~する間、見ないようにする手法である。態(てい)のよいシカトだが、狛犬の姿を見ないことで腹も立たなくなったのである。そしてこの日も、狛犬がフゥ~フゥ~し出したとき、里山は左を向いて小次郎の背を撫(な)でていた。背を突然、撫でられた小次郎は、ウトウト・・眠る状態から目覚めたが、里山のするに任せた。
「ああ、まあな…。どこから聞いたんだ?」
「えっ? ああ、まあ…。風の噂で」
「そうなんだが、こればかりは本人の意思だからな。股旅(またたび)先生にも言われたよ」
「股旅先生とは、どちらで?」
「ああ、狛犬はしらなかったか。いやなに、小次郎の師匠筋に当たる猫の先生だ。俳句を嗜(たしな)んで旅しておられる俳人ならぬ俳猫だ」
狛犬がフゥ~フゥ~しなくなったので、里山は元の姿勢に戻(もど)った。
「俳猫! こりゃ、いいですね、ははは…」
里山の言葉を聞き、狛犬は賑(にぎ)やかに笑った。小次郎はその笑い声で目を開けた。なんだ、この男は…と少し怒れたのである。小次郎としては、少しの時間でも身体を休め、眠りたかったのだ。