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水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

コメディー連載小説 里山家横の公園にいた捨て猫 ⑤<29>

2015年07月01日 00時00分00秒 | #小説

 刊誌の取材陣2名が里山家に訪れたのは、小次郎が家へ駆け戻(もど)ってから僅(わず)か5分ほどだった。小次郎がホットライン[小次郎が里山家の内外を自由に出入りできる秘密の抜け道]を使って外庭からキッチンへ入り、キャット・フードの缶詰をひと口、頬張ったときだった。これでは、美味しい! と感じる暇(ひま)もない。里山の方は沙希代に夕食を取材あとでしてくれるよう伝えておいたから、余裕はなかったが心理的な焦(あせ)りもなかった。
「夜分、お邪魔しますぅ~~!」
 愛想よい笑顔でガラガラと戸を開け、玄関へ若い女性記者と中年男のカメラマンは入ってきた。里山は今か今かとばかりにスタンバイしており、すぐキッチンから玄関へ現れた。
「はい…。いや、どうもご苦労さまです。お初にお目にかかります。私が里山です。玄関は寒いですから、まあ、上がって下さい」
「週間MONDAYの干柿(ほしがき)です。こっちが串木(くしき)です」
「串木です…」
「おい! 上がらせてもらおうや」
「ええ…」
 カメラマンの干柿に促(うなが)され、串木も靴を脱いだ。
「干柿さんに串木さんとは、なんとも愉快な組み合わせですね…」
 里山はすでに遠退(とおの)いた正月飾りの串柿を頭に浮かべ、ニヤけた。


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