人がお亡(な)くなりになれば、知っている人ならずともお悔(く)やみの言葉の一つも自(おの)ずと出るというものだ。ところが、植物とか動物だと、愛好家を除(のぞ)き、意識がされないのが日常の相場である。同じ生命だというのに、こうも違うのはなぜか? という疑問が、ふと湧(わ)いてくる。あんたも暇(ひま)だなっ! と言われれば、それまでだが…。^^
ここは生命の根源を探る、とある遺伝子解析の研究所である。人ゲノム・・などと呼ばれる分野だ。
「教授! 生命のルーツは、コのナニにあったんですねっ!」
「だねっ! まさかナニとは…」
「これで教授! ノーベル賞、間違いなしっ!」
「ふふふ…そうだろうか」
教授は助手にゴマを擦(す)られ、すっかりその気になったのか、自慢げに返した。
「ええええ、そらもう…」
助手は、さらにヨイショする。
「おっ! こんな時間か…、ここらで、ちょいと休もうや。君、コーヒーでも淹(い)れてくれんか?」
「分かりました。…おやっ?」
「どうかしたのかね、君?」
「このサイエンス誌の記事、私達の研究テーマと同じじゃないですかっ!」
「なんだって!! …こ、これは!!」
教授はショックのあまり、思わずフロアへ崩れ落ちそうになった。
「だ、大丈夫ですかっ! 教授!」
「大丈夫もなにも…。先を越されてるじゃないかっ! え~~君っ!!」
「わ、私に言われても…」
助手は声を弱め、身を小さくした。
「ノーベル賞どころか、これじゃ、ノーベル飴(あめ)をもらうくらいだよっ、君っ!」
「なぜ先を越されたんでしょう? それが疑問ですね?」
「疑問もなにも…。それこそが生命の神秘なんだよ、君っ!」
「はあ…」
助手は教授の言う意味が分かないまま頷(うなず)いた。
生命とは、誰も意味が分からない疑問中の疑問なのである。^^
完