水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

疑問ユーモア短編集 (54)近頃(ちかごろ)

2020年02月27日 00時00分00秒 | #小説

 年齢を重ねると一日が早く過ぎていくようで、どうもいけない。ひょいと、テレビのリモコンを押すと、知らないタレントさんや男優、女優さんが映ることが、しばしばある。…? と考えながら画面を観ていると、結構、名前が出た人物だったりする。ほう! 近頃(ちかごろ)はこんな人が活躍しておられるのか…と、つくづく時の流れの早さを思ったりする訳だ。要は、自分がそれだけ年老いた・・ということに他ならないのだが。^^
 桜が満開のとある公園である。木々の下に設(もう)けられたベンチに座り、いつぞやも登場した、二人の老人が花見をしながら飲みつつ食べている。
「おやっ? 前に新しいお家(うち)が建ちましたなっ!」
「そうですな…。近頃の人間世界は景観(けいかん)がよく変わります」
「ははは…さよです。家は建っても家族が…」
「私のお隣の家など、ローンを返す必要がないナントカにお入りだそうですよっ!」
「リバースモーゲージですか?」
「…? なんです、それはっ?」
「不動産を担保(たんぽ)に融資(ゆうし)を受けましてね。死亡時など契約終了後に、その担保不動産を売却して融資残高を返済する制度・・ということです」
「よくご存知で…」
「ええまあ…。家裁の判事をしておりました頃、ソレ絡(がら)みの民事調停がありましたもので…」
「生きている間だけでも心身とも快適に・・ということですかな?」
「はあ、まあ…。近頃の風潮(ふうちょう)ですと、そうなります。核家族化にともなう一世代住宅・・ということでしょう」
「家はあっても家族がいなくなる・・侘(わび)しい我が国の現実ですな…」
「まっ! 起死回生(きしかいせい)の逆転ということもありますから…」
「崩(くず)れかかっていても、家族が多い楽しい我が家の方がいいようで…」
「ははは…さすがに崩れちゃ困りますが…。まあ、家とは建物ではなく、家族とは言えるでしょう」
「ははは…なるほど!」
 満開の桜の中、二人の笑い声が、いつまでも続いた。
 近頃の変化に合わせる方が幸せになれるのか? は疑問だが、近頃…と思える原因は、年齢を重ねたから・・とは言える。^^

                                


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