水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

疑問ユーモア短編集 (38)勝つ

2020年02月11日 00時00分00秒 | #小説

 勝つと気分がいいし、自他ともに感動もする。だが、真に勝つとは? と考えたとき、素朴(そぼく)な疑問が、ふと浮かぶ。勝つこと・・それはそれで素晴らしいことに変りはない。が、しかしである。その勝ち方は? と考えたとき、果たして勝つだけの価値や意味が自分にあったのか? 相手の方が価値や意味があったのではないか? と自問自答したとき、相手の方が正解だった・・ということも、よくある。それは、対戦しているときではなく、対戦後に自ずと現れるというのだから怖(こわ)い話だ。真に勝つとは人に勝つのではなく自分に勝つということらしい。お分かりかな? 私が言った訳ではないから、私にも分らない。^^
 とある市民運動会が終ったあと、帰り道で二人の男がトボトボと歩きながら話をしている。
「いやぁ~、負けてよかったですわ。隣のご主人ったら、絶対に勝つっ! と意気込んでおられましたからねぇ~」
「ほう! そうなんですか?」
「ええ、意気込んでおられただけあって一着で勝たれましたがね…」
「というと?」
「そこなんですよ。勝ち気はいけませんな。勝つためのトレ-ニングをされたようなんですが…」
「トレーニングをね。そりゃそうでしょ! 勝つのが目的なら」
「それがダメだったんですわ。やり過ぎはいけませんな。それが今日の競争のあと出てしまったようです」
「ほう! どうされました?」
「アウトっ! です」
「なにが?」
「身体(からだ)が…」
「ほう! どうなーされました?」
「腰をお痛(いた)めに…」
「お痛め?」
「さよです。ギックリに…」
「ギックリ腰ですかっ!」
「はい、そうです。私はダメだと分っていましたから、参加することに意義がある・・という程度で走りました」
「クーベルタン男爵(だんしゃく)ですなっ!」
「ははは…そんな、いいもんじゃないっ!」
「いやいや、負けるが勝ちですなっ! ははは…」
「ははは…」
 勝つという意味の疑問が、コトが終ったあとに解(と)けた典型的な例のお話である。^^

                                


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